築地本願寺のライトアップが美しい。
突如として現れたモダン的な建物は幻想的で、しばしわたしは見とれてしまった。その向こうには築地の場外市場が見えており、それがまた、非日常の風景を醸し出している。
どこに行こうか。
勝ちどきの立ち飲み「かねます」なら近いが、何しろ財布が心細い。中身を確認したら、なんと1,500円程度しか持っていない。とにかくお金がないのである。
1,500円で酒を飲むっていうのはとにかく無謀だ。
だが、角打ちならなんとかなるだろうと思って、店を探した。だって、実にありそうな話しじゃないか。築地なら、なんとなく角打ちがありそうな雰囲気じゃないか。けれど、歩いても各打ちどころか立ち飲み屋すら見つけられなかった。
「帰ろうかな」と思ったとき、禁断の考えが浮かんできた。
ケータイで立ち飲み屋を検索してみようと。人間が歩いて店を探せるのには限界があるという言い訳を添えて。
すると、「粋」という店が検索にひっかかった。幸いなことに現在地からも近い。新大橋通りと晴海通りの交差点。その角にあるビルの地下にあるという。
更にこのビルが素晴らしかった。目の前に築地市場を臨むだけあって、ビルのテナントも市場からこぼれ出たかのような魚介類の店があちこにある。これはものすごいところに来てしまった。
エスカレーターで地下に降りていくと、小さな店の前に出た。なるほど、これが「粋」か。店には扉のようなものがなく、いきなりダイレクトに店になっている。普通の店なら、店の前でガラス戸を通して、店の偵察もできるが、ここは偵察もなにもあったものではない。いきなり店だからだ。
わたしは少したじろいだ。
店員と目が合い、目を逸らすこともできず、わたしはそのまま店に入った。これでいいのだ。逃げてはいけない。逃げてしまった場合、ばつが悪くて、この後、ここには戻りづらい。強行突破するのみだ。
客はひとりもいない。だが、ネットで検索した情報では、夜はとても入りきれないほどの客でごった返すという。時刻はまだ17時。この後、客が大挙してくるのだろう。
店はそれほど広くない。厨房前のカウンターは5人立てば、もういっぱいになるだろう。入口に近いところには、大きな保冷器があって、そこに旬な肴が置かれている。
わたしはカウンターの端に陣取った。
そして、ビールを注文した。ビールは小瓶のみ。だが、「スーパードライ」(420円)、「ヱビス」(450円)、「プレミアムモルツ」(450円)の3種類を楽しむことができる。何故か、キリンがないのが気にかかるが、消去法で「ヱビス」
をチョイスした。
お通しが出てきた。貝の刺身の立派なお通しだ。
あまりにもたいそうなものだから、店員さんに聞いてみた。
「お通しはいくらですか?」と。
すると、店員から「310円です」と返ってきた。
普段なら、そんなことは気にもしないが、なにしろ今夜は1500円しか持っていない。これで760円、すでに手持ちの半額を失った。
なんの貝かは分からないが、お通しは悪くない。この値段で珍味な貝が食べられるのは、なんともラッキーだ。
しかし、さすが築地。東京の台所。魚がメニューにずらりと並ぶ。
かつお、さば、さわら、めばる、などなど、これら全て刺身。赤むつ、かます、は焼きで。金目鯛の刺身は1,360円もするけれど、食べる価値はありそうだ。ホワイトボードに書かれたメニューにはしっかりと水揚げされた港の名前がしっかりと書かれている。
さて、何にしようか。金のないわたしでも食べられるもの。
探していると見つかったのは「黒むつ刺」の250円。いかにも安い。
だが、250円だからといって馬鹿にしてはいけない。これが本当においしかった。歯ごたえ十分。
前日の「アキバの酒場」で食べた「こち」もうまかったが、2日連続で珍しい魚にありつける、この幸せ。
やはり、日本人は魚だ。
ちなみにわさびは本物。鮫皮が配られ、すりおろして使う。まさにほんまもん。
刺身には酒をいただきたい。
同店の酒は3種類。
「占飲(ひとりじめ)」と吟醸の「ばくれん」、これが各420円。そして「氷酒」が1合620円。
「黒むつ」を食べたことで、手持ちのお金は残り490円となった。
ここはもう420円の酒を飲むしかない。そこで吟醸の「ばくれん」をチョイスした。
これがまたうまかった。
これなら、人気店になるのもうなづける。
わたしは、酒と魚をゆっくり味わって、店を出た。〆て1430円。だが、この金額以上に満足だった。
食べログで最近の同店の様子を見ると、座り飲みしている人がちらほら。店のキャパシティと環境もあるので、座り飲みの方がマッチしているのかな。
いずれ再訪したい店である。今度はちゃんとお金を持って。
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