「BBB」

BASEBALL馬鹿 BLOG

オレたちの「深夜特急」~インド編 ニューデリー 11 ~

2015-02-09 15:38:15 | オレたちの「深夜特急」

一睡もできない夜が明けると、わたしを苦しめた蚊の大群は、瞬く間に部屋から姿を消した。

信じられないことに、東の空に明かりが射したと同時に彼らは霧散霧消した。

インドに着いて、4日目の気だるい朝だった。

 

わたしは、キャンプの食堂で、チベッタンのバター茶だけをもらい、数本のタバコを吸った。

そして、宿に戻り、荷物を積めて、チェックアウトをした。チベッタンキャンプには、僅か1日の滞在だった。

バックパックを背負い、宿の外に出ると、ボブネッシュが立っていた。わたしの格好を見て、彼は「チェックアウトしたのか?」と聞いた。

わたしが頷くと、彼は「そうか」と肩を落としたように見えた。


「出発まで時間があるのならば、ボクの通う大学に行かないか」とボブネッシュは誘った

彼の通う大学は、徒歩で30分ほどのところにあるらしい。他国の大学キャンパスに入る機会はそれほどないだろう。わたしは、「行ってみたい」と答えた。

彼の通う大学は、デリー大学だった。やはり、ボブネッシュはエリートだったのだ。

デリー大学のキャンパスは整然としており、雑然としたパハルガンジや埃っぽいチベッタンキャンプとは、全く異なる風景がそこにあった。

 

しばらく歩くと、サリーをまとった小柄な女性が現れた。

小豆色の地味な色合いのサリーの女性は、どうやらボブネッシュの彼女らしい。

彼女は名前をダルシャンと言った。

わたしたちは、木陰に座り、お互いの自己紹介をしたが、会話は続かなかった。ダルシャンは、とにかくおとなしい女性だった。

しばらくすると、ダルシャンは授業があるといい、校舎の中に消えていった。

「素敵な彼女だね」と言うと、ボブネッシュは少しはにかみながら、そして俯いた。

「どうしたんだい?」と彼に尋ねると、ボブネッシュは真剣な顔で向き直り、こう言った。

「ボクは彼女とは結婚できないんだ」

ボブネッシュの身の上話しによると、彼と彼女の間には、カーストという深い溝が横たわっているらしい。身分制度が、今もインドの若者の生き方に暗い陰を落としているのである。

 

しんみりとなったわたしたちは、キャンパスの正門まで無言で歩いた。途中、ボブネッシュは、わたしの手を握ってきた。わたしが嫌がる素振りをしたのだろう。彼はすぐさま、「インドでは、男同士でも手をつなぐんだよ」と言った。確かに、周囲を見渡すと、男同士で手をつなぐ人たちがいた。

大学の正門前には屋台があり、ボブネッシュはそこで2人分のサブジーを買った。

何の葉っぱだろうか。笹のような葉で箱状に編みこまれたものにサブジーが入っている。サブジーは、一見カレーに見えるが、野菜を蒸した料理である。わたしは、ボブネッシュに倣い、右手の指を使って、掬いながらそれらを口に運んだ。

これもまたおいしく、またしてもわたしは「ヤミー」を連発した。

 

そこで、わたしは、ボブネッシュに質問した。

「アーグラーに行きたいんだが、どの交通機関で行くのがベストだろうか」。

すると、ボブネッシュの口から意外な言葉が返ってきた。

「本当に行ってしまうのか」。

「どうして?」とわたしが尋ねると、「もう少しボクといてほしい」と言う。

どういう意味なのだろうか。昨日出会ったばかりのわたしに、ボブネッシュは何を求めているのだろうか。

「どうして?」

わたしは、再び同じ言葉を発した。

すると、彼は、ダルシャンとの悩みの続きとともに、家族についての悩みを打ち明けはじめた。

だが、わたしにどんなアドバイスができようか。そしてそれを的確に伝えるための語学力すら、わたしは持ち合わせていない。

 「わたしに何ができるだろう」。

正直な気持ちを彼に伝えた。

ボブネッシュは、またしても同じ言葉をつないだ。

「もう少し、ボクといてほしい」。

 

わたしたちは、デリー大学の正門から、いつしか繁華な通りを歩いていた。

チャンドニーチョウクという通りは、ニューデリーのパハルガンジよりもタフなストリートだった。

目的もなく歩くわたしたちに容赦なく、強い日射しが降り注ぐ。

 

デリーは、とにかくこの日も暑かった。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 居酒屋さすらい 0823 - 熊猫... | トップ | 居酒屋さすらい 0824 - 笑顔... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
インドの人の (ふらいんぐふりーまん)
2015-02-09 23:13:34
 日本人では考えられない、強烈な懐への突っ込みようには、ほんと面食らうよねえ。初対面とか、出会ってすぐとか関係なく、ガンガン来る時あるよねぇ。

 さて、若い彼は、師に何を求めて師を引き止めてるんだろうね。そして師は、そんな彼にどう対応するんだろうか。

 続きを楽しみにしてるよ。
返信する
Unknown (熊猫)
2015-02-10 08:37:11
バタバタしていて、なかなか先を書けないよ。
ニューデリー編だけで、一年を費やしてしまった。
濃厚なインド。
毎日が逡巡だった。
返信する

コメントを投稿