仕事を終えて外に出るとすっかり雪が降っていた。
予定ではその足でビール園に向かい、今巷で静かなブームを呼ぶジンギスカンをつまみながら生ビールをしこたま飲んでやろうと画策していた。大ジョッキを5杯は飲んでやろうと。
しかし、時計台の脇をすり抜け、バス停に向かう道すがら、なんとなくそれも面倒くさくなってきた。サッポロビール園まではバスで十数分といったところか。しかし、寒い。しかも、雪は間断なく降り続いている。もう3月も下旬なのにこの凍てつく寒さは身に沁みる。こんな日は燗したお酒で温まるのが一番いい。そう思うと途端にビールなどはどうでもよくなり、踵を返し、駅近の店を探すことにした。
実は友人から聞いていた。
札幌駅北口を出たすぐそばにうまい日本酒を飲ませる店があることを。
初めての店に向かうとき、どんな風情の飲み屋なのか、あれこれ想像する反面、少しの不安も頭をもたげる。果たして、居心地はどうなのか。値段は安心なのか。一人でも楽しく飲めるか。
しかし、そんな心配は全くの杞憂に終わった。
ビルの地下にある「味百仙」。すっかり冷えた体と心を温かくほぐしてくれる灯火のような店だった。暖簾をくぐると目の前にはカウンター。お店中央に大きなテーブルが置かれ、その向こうが小あがりになっている。
とにかく、ビールが飲みたい。札幌に来るとビールを飲むスイッチは自動にONになる。新千歳空港に降り立ったその瞬間から麦酒摂取指数は上が180くらい、下でも120ほどに上昇するのだ。ちなみにこの麦酒摂取指数とは血圧とほぼ同様のものである。
生ビールを頼むと、素焼のビアマグで運ばれてきた。「コロボックル」。特に意味はないが、なんとなくそんなイメージを覚えた。別に、その素焼のビアマグにコロボックルの柄が刻まれていたわけでもない。ただ、なんとなくそんな気がしただけだ。
お通しには平目と山菜の和え物。これが実にうまい。だが山菜の種類が判然としない。お店のお姉さんに聞いたが、聞いたこともない名前だった。このお通しだけで十分ご飯3杯はいける。
お品書きに目をやれば、ホタルイカの文字が飛び込んできた。
実に旬だ。ホタルイカの酢みそ。居酒屋料理の定番にして、この肥沃な大地で食べるそれはまさに贅沢の一言に尽きるはず。そうこうするうちにコロボックルが空になった。ビールはもういいか。日本酒でないとホタルイカに失礼になるだろう。
お酒は全国の地酒を幅広く揃えている。「地元のお酒は?」と尋ねると「北育ち」と返ってきた。しかも純米吟醸。こりゃ、燗はつけられない。かなり、大ぶりのぐい飲みになみなみと注がれる透明なる清水。ちょうどホタルイカも運ばれてきた。もう、口の中は濃密な唾液があふれるほど。
北育ちを口に含んでみた。辛口!こりゃ、いい。酢みそとも相性はいいはず。案の定、ホタルイカが口の中でプチプチ弾む。大げさな表現ではない。弾力ある新鮮なイカだからこそである。
さて、魚が食べたくなってきた。おばちゃんに「お薦めの魚は?」と尋ねると、「お客さんは東京?ホッケ焼きましょう」と自信の一声。北の大地とくれば、やっぱホッケだ。ホッケしか考えられない。
道産子、自慢のホッケが運ばれてきた。その肉厚なことといったら、そりゃ、もう。草鞋を飛び越えて座布団鰈よろしく、座布団ホッケ。果たして一人で食べきれるか、今はそれが心配だ。
さて、もう一杯。次なる酒もやはり地元の「北の錦」。やはり、旅先ではご当地の酒を飲まなきゃ意味がない。何故なら、その地で出される食べ物に一番合っているのが言うまでもなく、その酒なのだから。
北の錦はいくらか甘口か。しかし、その飲み口も分厚いホッケにこりゃ、またよくあう。甘いのに、飲みごしは爽やかだ。
ホッケを無心でつつく。蟹も黙るがホッケも無言になる。つついてほじくってはまたむしる。いやはや北の厳しい海流に育まれた魚は身がしまって実にうまい。
おおッと気がつけばもうこんな時間。飛行機の時間が迫ってくる。すっかりの温かいもてなしに重い腰がなかなか上がらない。
僅か1時間のしかし極上なカウンター席であった。
予定ではその足でビール園に向かい、今巷で静かなブームを呼ぶジンギスカンをつまみながら生ビールをしこたま飲んでやろうと画策していた。大ジョッキを5杯は飲んでやろうと。
しかし、時計台の脇をすり抜け、バス停に向かう道すがら、なんとなくそれも面倒くさくなってきた。サッポロビール園まではバスで十数分といったところか。しかし、寒い。しかも、雪は間断なく降り続いている。もう3月も下旬なのにこの凍てつく寒さは身に沁みる。こんな日は燗したお酒で温まるのが一番いい。そう思うと途端にビールなどはどうでもよくなり、踵を返し、駅近の店を探すことにした。
実は友人から聞いていた。
札幌駅北口を出たすぐそばにうまい日本酒を飲ませる店があることを。
初めての店に向かうとき、どんな風情の飲み屋なのか、あれこれ想像する反面、少しの不安も頭をもたげる。果たして、居心地はどうなのか。値段は安心なのか。一人でも楽しく飲めるか。
しかし、そんな心配は全くの杞憂に終わった。
ビルの地下にある「味百仙」。すっかり冷えた体と心を温かくほぐしてくれる灯火のような店だった。暖簾をくぐると目の前にはカウンター。お店中央に大きなテーブルが置かれ、その向こうが小あがりになっている。
とにかく、ビールが飲みたい。札幌に来るとビールを飲むスイッチは自動にONになる。新千歳空港に降り立ったその瞬間から麦酒摂取指数は上が180くらい、下でも120ほどに上昇するのだ。ちなみにこの麦酒摂取指数とは血圧とほぼ同様のものである。
生ビールを頼むと、素焼のビアマグで運ばれてきた。「コロボックル」。特に意味はないが、なんとなくそんなイメージを覚えた。別に、その素焼のビアマグにコロボックルの柄が刻まれていたわけでもない。ただ、なんとなくそんな気がしただけだ。
お通しには平目と山菜の和え物。これが実にうまい。だが山菜の種類が判然としない。お店のお姉さんに聞いたが、聞いたこともない名前だった。このお通しだけで十分ご飯3杯はいける。
お品書きに目をやれば、ホタルイカの文字が飛び込んできた。
実に旬だ。ホタルイカの酢みそ。居酒屋料理の定番にして、この肥沃な大地で食べるそれはまさに贅沢の一言に尽きるはず。そうこうするうちにコロボックルが空になった。ビールはもういいか。日本酒でないとホタルイカに失礼になるだろう。
お酒は全国の地酒を幅広く揃えている。「地元のお酒は?」と尋ねると「北育ち」と返ってきた。しかも純米吟醸。こりゃ、燗はつけられない。かなり、大ぶりのぐい飲みになみなみと注がれる透明なる清水。ちょうどホタルイカも運ばれてきた。もう、口の中は濃密な唾液があふれるほど。
北育ちを口に含んでみた。辛口!こりゃ、いい。酢みそとも相性はいいはず。案の定、ホタルイカが口の中でプチプチ弾む。大げさな表現ではない。弾力ある新鮮なイカだからこそである。
さて、魚が食べたくなってきた。おばちゃんに「お薦めの魚は?」と尋ねると、「お客さんは東京?ホッケ焼きましょう」と自信の一声。北の大地とくれば、やっぱホッケだ。ホッケしか考えられない。
道産子、自慢のホッケが運ばれてきた。その肉厚なことといったら、そりゃ、もう。草鞋を飛び越えて座布団鰈よろしく、座布団ホッケ。果たして一人で食べきれるか、今はそれが心配だ。
さて、もう一杯。次なる酒もやはり地元の「北の錦」。やはり、旅先ではご当地の酒を飲まなきゃ意味がない。何故なら、その地で出される食べ物に一番合っているのが言うまでもなく、その酒なのだから。
北の錦はいくらか甘口か。しかし、その飲み口も分厚いホッケにこりゃ、またよくあう。甘いのに、飲みごしは爽やかだ。
ホッケを無心でつつく。蟹も黙るがホッケも無言になる。つついてほじくってはまたむしる。いやはや北の厳しい海流に育まれた魚は身がしまって実にうまい。
おおッと気がつけばもうこんな時間。飛行機の時間が迫ってくる。すっかりの温かいもてなしに重い腰がなかなか上がらない。
僅か1時間のしかし極上なカウンター席であった。
北海道はホントに魚が美味しいですよね~。
地酒に地肴(なんて言葉はないですかね)は、やっぱり、何処の地域に行っても最高です。