やがて、わたしの前にターリーが運ばれた。銀の小鉢に入った2種類のカレーにダル、数枚のチャパティにダヒィと呼ばれるヨーグルトが銀のプレートに載っている。
早速、チャパティをちぎって、カレーにつけて食べてみる。うまい。
トマトベースのベジタブルカレーだ。もうひとつの小鉢に盛られたカレーにもチャパティをつけて食べると、マイルドな味わいが口に広がった。バター風味のチキンカレーのようである。
いずれも、これまで食べたカレーとは味が違っていた。薫りが重厚なのである。そういえば、デリーのボブネッシュの家でご馳走になったカレーも、同じような薫りがした。これまで食べたカレーは、外国人向けにアレンジされていたのだろう。
とにかく、おいしくて、あっという間にチャパティがなくなりそうになると、店主が現れて、わたしにこう言った。
「チャパティ?」
「え?」
と聞き直すと、彼は、「モール、モール」と言った。
あ、「モア、モア」と言ってるのか。つまり、もっと食べろと。インド人は、Rの発音を「ル」と読むというのを、わたしはバックパッカー仲間から聞いていた。
まだ、カレーも残っているので、わたしは大きく頷くと、店主は手に持った皿から3枚のチャパティを出して、プレートに載せた。さすがに、3枚の追加は多すぎだ。なんとかそれを食べ終えて、一息ついていると、三度店主が現れて、わたしに言った。
「モール、モール」。
わたしは慌てて、「No thank you」と返した。食べられる訳がない。
朝から満腹になり、店を出ようと会計すると、店主は「ターティ」と言った。多分、「サーティ」と言ったのだろう。30ルピーならまだ安いかと思い、50ルピー札を出すと、店主は不機嫌になり、「ノー チェンジ」と言った。釣り銭がないらしい。
ポケットから札と小銭を出して、小さい札を探していると、店主はおもむろに手を出して、10ルピーの札と1ルピー札3枚を取り上げた。ターリーは13ルピーだった。店主は「サーティ」と言ったのではなく、「サーティーン」と言ったのである。日本円に換算して36円。間違いじゃないかと思い、わたしは目を丸くして聞き直した。
「オンリー サーティーンルピーズ? 」。
すると、彼は落ち着いた素振りで、「うん、うん」と頷くだけである。
狐につままれたように店を出て、わたしは宿に戻った。すると、宿の前にたむろするリキシャーワーラーの中から、ひときわ大きな声を上げて手を振る男がいる。例の紫のスカーフをまとった男である。
「おぉい、乗らねえか」。
いずれ、この観光都市を巡る時が来る。一体いくら、ふっかけてくるのか。わたしは、ターリーの値段が分かったことで、値段の基準を知った。それを基に、リキシャーの値段を知りたかった。
威勢よく手を振る紫スカーフに、わたしは近づいていった。
店ごとに違った味付けのカレーや、同じ店でもカレーが日替わりになっていたりと、ターリーさえ食ってれば間違いなかったなあ。
しかし、ここでオンリーサーティーンルピーと言っているということは、それまでだいぶ師もぼられてたな。(笑)
まあ、現地人が行く店ではなく、バックパッカー向けの店だと、自ずとお高い価格設定になってるからなあ。
それにしても、外国人と見てぼる店ではなく、良心的なお店、いいよねえ。
チャパティーおかわりを無料で提供し、それも向こうから勧めてくるだけのことはあるね。
さて、ジャイプルのリキシャー価格交渉はどうなるのかな。
ちなみに、この時点ではまだ、チャパティのおかわりが無料であるということに気づいていないんだ。
デリーではほぼボブネッシュと一緒に過ごし、アーグラーではサリームと過ごすとともに入院して、インド文化に向き合必要がなかったけれど、インド文化に戸惑いなから、少しずつ文化に溶け込もうと悪戦苦闘する方向に変わりつつあるよ。