この店「あきば」を路麺と評していいのか。確かに、食券を購入し、セルフ式の蕎麦だが、蕎麦の品質が違う。
戸隠のそば粉を使った手打ちそば。鰹節、真昆布の天然出汁の繊細さ。どれをとってもクオリティが高い。
蕎麦とは基本的に庶民の食べ物で、そもそも敷居の低いファストフードだ。しかしながら、いつしか日常的なものからかけはなれ、なんだかややこしい食べ物になった。これはあくまでも、想像なんだが、「あきば」の店主は、そういう状況に乗じず、庶民のファストフードとして、蕎麦を提供しているのではないだろうか。もし、そうであれば、この品質に対して、同店の蕎麦の値段は、奇跡といえるかもしれない。
今回も「冷やかけあきばそば」(560円)をいただく。
美しい整然とした盛りにます感動する。わかめ、天たま、もやしにねぎ、鰹節と温泉たまご。彩りといい、配置といい、それは芸術的。いただく前に、まずは視覚が満足する。
一筋の蕎麦を手繰り、口にする。ひんやりとした蕎麦のみずみずしさと薄味のつゆがいい。単なる旨さではなく、奥行きのある慈味である。辛いつけ汁が冷たい蕎麦の定石だが、この薄味の汁で勝負できるのは、あらゆる出汁の探求の成果だろう。
560円という値段。決して高くない。蕎麦は160gくらいはあるだろうか。具材もたっぷりあって、腹が満たされる。満足度も高い。
「何食うかな」といったとき、自然に足が向いてしまう蕎麦屋だ。
いよいよ、秋本番です。