労働契約法第18条は、5年を超えて有期雇用契約を締結することとなる労働者は無期雇用契約に転換できるものとしている。
一部に誤解している向きもあるが、「無期雇用」と言っても必ずしも「正社員」にする必要はない。 「雇用期間」だけ「無期」に変えて他の労働条件は同じのままで構わないのだ。
さらには、5年経過時に(無期転換するのと引き換えに)労働条件を不利益に変更した新たな契約を締結することも法令上は禁じられていないし、実際、そのような例も珍しくはない。
これに関し、厚生労働省に設置された労働政策審議会では、先ごろ、「事業主に『当該労働者に対し無期雇用契約に転換できる旨を個別に通知すること』・『その通知は無期転換後の労働条件を示して行うこと』を義務付ける省令改正案を概ね妥当と認める」と答申した。
案によれば、改正省令は令和6年4月1日から施行される見込みだ。
もっとも、そうなっても、労働条件を不利益に変更してはならなくなるわけではない。
当事者双方が納得のうえで合意したのであれば、法令や信義に反しない限り、有利にであれ不利にであれ、労働条件を変更することができる(労働契約法第8条)。
不利益変更に関するトラブル事案は、その多くが、会社が就業規則を一方的に制定または改定して無期転換者に不利益な労働条件に変えてしまったケースだ(高松高判R1.7.8、大阪高判R3.7.9等)。 なので、合理的な理由に基づいて労働条件を変えるのであれば、その事情を当該労働者にきちんと説明して理解を求めればよい。
ちなみに、無期転換時の話ではないが、労働条件の不利益変更に関し労働者から提出させた『同意書』を会社からの説明が不充分であったことを理由に無効と断じた裁判例(最二判H28.2.19)もあるので、形式だけの合意では足りないことは認識しておきたい。
なお、パートタイマーの場合は、「同一労働同一賃金」の観点から、いわゆる正社員との間に不合理な待遇差があってはならない(均衡待遇;パートタイム有期雇用労働法第8条)。 これは無期転換しなくても適用されていたわけだが、無期転換すると「職責」が正社員に近づくこともあるので、特に注意を要する。
そもそも、無期転換の制度は、有期雇用労働者の労働条件を引き上げればこそ、不利益に変えることは想定していなかったはずだ。
仮に労働条件の一部を不利益に変えざるを得ない場合であっても、トータルで労働者に不利にならないよう設定するのが、法の趣旨を踏まえた対応と言えるだろう。
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