企業内労組であるか合同労組(企業の枠を超えて地域単位で労働者を組織する労働組合;「一般労組」・「地域ユニオン」等とも呼称される)であるかを問わず、労働組合が事務所の供与を要求してくることがある。
こうした場合、会社はその要求に応じなければならないのだろうか。
まず、事務所供与に関する論の前提として、労働組合法第7条は「労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること」を「不当労働行為」として禁じている(同法同条第3号)ことを理解しておきたい。ただし、「最小限の広さの事務所の供与を除く」(同ただし書き)とされている。つまり、事務所供与は、原則として禁じられている「労働組合への経理上の援助」の“例外”という位置づけになる。
したがって、事務所スペースを(有償であれ無償であれ)貸与するか否かは、会社側の都合で決めればよい。「労使の合意による」という表現を用いた判例(最一判S62.5.8)もあるが、現実には、土地・建物の所有者であり施設管理者である会社の意思によることになる。
まれに事務所の供与は当然の権利であるかのように主張する労働組合も見受けられるが、それは会社の義務でないことを、正しく理解しておきたい。もちろん、交渉事なのだから、「諸事情を勘案したうえで事務所を供与する」という選択肢もあっても問題ない。
さて、以上はこれまで労働組合に事務所を供与していなかった場合の話であって、現に組合事務所を供与している場合にそれを取りやめるのはそんな簡単ではない。現行労働協約の有効期間中はもとより、労働協約更新の時期であっても、従来行ってきた慣行を撤回するには、合理的な理由と相当な配慮が必要(東京地判H17.8.29)とされているからだ。
ちなみに、某大都市の職員が組織する労働組合に対し市の施設利用不許可処分に基づいて従来から供与していた事務所を明け渡すよう命じた判決(最二判H29.2.1)は、「行政庁側の庁舎使用の必要性」や「組合への便宜供与の全面禁止を定めた条例の存在(条例の違憲性について最高裁は判断せず)」等を主な理由としているので、民間企業がこれを会社に有利な材料として用いるには無理がありそうだ。
もし何らかの事情があって会社が労働組合への事務所供与を取りやめるつもりなら、具体的な必要性を説明して、組合の理解を得られるよう努めるべきだろう。そして、それが、組合活動を妨害する意図をもって行われてはならないことは、言うまでもない。
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