未だに暇を見つけては、母と父の遺品の整理をしている。
晩年の父は、潔く自分の身の周りの整理をしていたので、故人のこれこそ遺品
形見とよべるような物はほとんど無かった。
そして、今回父の部屋の天袋の片隅から出てきたのは、古色蒼然とした古い古い風呂敷包みだ。
埃っぽいその包みを解けば、中から出てきたのはひとつの箱。
更に、その箱の上にのっていたのは、原稿用紙の分厚い束だった。
父は文章を書くのが好きだった。
仕事関係の会報などに頼まれては、よく寄稿していた。
ところが。みつけた原稿用紙は、多分父が独身の頃に綴ったであろう随筆かエッセイのような?そんな感じの古い古い原稿だった。
折角それを見つけても、多分しばらくは読んでみようという気持ちには向かない。
父の生前の心情や感性などを知ることが、何故か怖いような気がして。
そして、父は仕事を退いてから、自分史なんぞを書こうとも思っていたらしい。仕事机の引き出しから原稿用紙の束が出てきたのだ。
たま~に語ってくれた父の人生は、家庭的には複雑で、そして戦争へ、そんな自分の来し方を、したためてみたかったのかもしれない。
結局は、まっさらな原稿用紙の束が、今や私の前に残されてしまった。
その原稿用紙を前にして、父は一字も書かなかったのか、書けなかったのか、書こうとしなかったのか、今となっては知る由もないけれど。