ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

わたし的心理学

2008年09月07日 | 音楽とわたし
昨日のドレスリハーサル、コケまくり
ハンナの影響で暴風雨がやってきたマンハッタン。気圧が低くなると眠くなるわたし。自分の番がやってくるまであくびの連続。
こんなボォ~ッとしててええんやろか?と思うのだけど、眠気は一向に去らず。
バレエダンサーを間近に見るのは初めてだったので、彼女のストレッチからダンスまでに至るすべての動作にポ~ッと見とれたりして、
なんとも緊張感の無いまま舞台に上がり、弾き始めたらいきなり心臓がバクバク。結果は上記の通り。

帰りの車の中で、やや落ち込みながら、わたしはわたしのことをぼんやりと考えていた。

5月のコンサートの1週間前、旦那が予約してくれた催眠療法士から電話がかかってきた。
「今度のセッションの前に1つだけ聞かせて欲しいことがあるの。あなたのピアノ人生の中で1番幸せな気持ちになった日のこと、思い出して教えてくれる?」
そんな日なんか無いもん、思い出せへんもんと黙りこくるわたし。それを彼女も黙って待っている。
あ、もしかしたらあの日、あの時やったら嬉しかったと言えるかも。
母が家を出てしまってからしばらくして、しょげていたわたしを元気づけようとしてくれたのか、
わたしの夢だったショパンの幻想即興曲を弾いてもいいよと許可してくれたピアノの師匠。
嬉しくて嬉しくて、その日から毎日毎日、それこそ実力と全く合わない曲に取り組んで、それなりに弾けるようになった。
そしてそれを市が主催するミニコンサートだかで弾かせてもらい、演奏中、生まれて初めて幸せな気持ちになったのだった。
「いいねいいね、その気持ちをよく思い出して。じゃあ今度は、その気持ちを一言で表すとどんな単語になるかしら」
再び長い沈黙……。
難しい曲を弾けるようになったこと?ううん、違うような気がする。もっと別の……。
突然、市立図書館のロビーで弾いている子供だったわたしが思い浮かんだ。
わたしの心が叫んでいた。おかあさん、おかあさんと、彼女に向かって。
「おかあさん、見て、ほら、わたしこんなに上手に弾けてるよ。わたしは大丈夫。そやからおかあさんも頑張って!」
母と別れた辛さや哀しみを、ピアノと一緒に乗り越えようとしている自分を、もう一人の自分が褒めてくれているような気がした。
「その時のあなたを一言で表現すると、Triumph という言葉がふさわしいと思う。この言葉をよく覚えておいて」
スペルを聞いて慌てて辞書で調べると『困難なことに打ち勝つ/成功を喜ぶ』と書いてあった。 

若かった頃、言葉通り、命からがら逃げ切ったこともある。
心が弱り切ってしまって、電話のベルが鳴ると失禁したり部屋の隅にうずくまったこともある。
そういうのって困難と呼ぶのにふさわしいよな、うん。
今の自分は?
生きるお金に困っているわけじゃなし、お金のせいで脅かしてくる連中がいるわけじゃなし、
練習しようにも、たったの10分だって集中させてくれないチビ息子達がいるわけじゃなし、
なのにいったい、なんだってこんなふうにヘロヘロしてるんだろう?

結局のところ、あとは気持ちの問題だという時点にまで至っている場合、気持ちをシャンとさせるのも凹ませるのも自分次第。
プラス思考、イメージコントロール、瞑想etc。
ああいうのはオリンピックとかに出る1部の特別な人達のもんだと思っていたけれど、
小さな町の名も無いピアノ弾きにだって、とっても大切なトレーニングなんだと、50才過ぎてやっと気がついた。

食欲と考察の秋
コメント
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