わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

現代の陶芸179(木村盛康3)

2012-08-29 21:43:18 | 現代陶芸と工芸家達

 3) 木村氏の陶芸 

   ③ 天目釉を掛ける。

    ) 作品に応じて、一度掛けと二重掛けの方法を取っています。

     a) 釉は金属を含む為に、直ぐに沈殿してしまうので、沈殿しないように攪拌しながら施釉する

       必要があります。釉には接着し易い様に、「ふのり」を入れるそうで、化学糊のCMCは

       入れていないとの事です。(CMCの素性が不明である事が原因です。)

     b) 一度塗りや、二重塗りの一度目は、浸し掛けで施釉します。

       器の内側は流し込みで、外側は底を持って口から容器に浸します。その際器を揺さ振り

       釉がしっかり染み込む様にします。

     c) 二重掛けの際には、施釉の範囲を制御し易い様に、霧吹きを用いて釉掛しています。

       釉の種類は、下地の釉で二十種類程度で、上に掛ける釉はそれ以上との事です。

       更に、同じ釉であっても、濃淡によって出来上がりに大きな差ができます。

   ④ 焼成はガス窯を使い、中性炎~還元炎で1280~1300℃の高温で焼成します。

      焼成時間は16~23時間と長めに成っています。(窯の容量は1立方mだそうです。)

     a) 冷却速度も大切で、速いと結晶は小さくなり、遅いと結晶は大きくなりますので、釉の

       種類や目的に応じて、決めている様です。

     b) 天目釉は不確実な要素が多く、窯を開けるまで解からないのですが、「必ずしも偶然性を

       期待して焼成している」訳ではないとの事です。

     c) 窯には160個ほどの茶碗が入りますが、世に出る作品はほんの数点と、厳しい様です。

   ④ 木村盛康氏の作品。

     鉄釉を研究していた長兄の盛和氏の影響で、天目釉にのめり込んでゆきます。

     釉の調合や焼成を繰り返すうちに、古来からの「油滴」や「耀変」とは異なる、新しい釉調の

     天目釉を開発する様になります。

    ) 「松樹天目」: 松の樹肌を思わせる網目状の銀白色の線が、漆黒を背景に浮かび

      上がった文様に成っています。流れる釉の為、文様は「Uの字」状や下向きで複雑に

      絡み合っています。 銀白色の線は、二重掛けによるものと思われ、文様もある程度、

      意図的に作り出している様に見えます。

       「松樹天目偏壷」: 高さ 23 径 17 cm

     ) 「天目 宙茶碗」: 青、水色、茶色、白、黒などの色彩が見込みに向かって、流れ込んで

        います。あたかも、宇宙の一点から四方八方に多彩な光が、放出されている様な感じの

        する作品です。

        「天目 宙茶碗」: 高さ 8.6 口径 12.8 cm 他多数

      ) 「華炎天目茶碗」: 朱色の器肌の内部から黒い(又は銀色)不定形の線が湧き

        上がってくる感じの作品です。

        この赤(朱色)は金属などの、着色材から取ったものではなく、釉として使う天然の楢(なら)

        灰の中の微量な鉱石によるものとの事です。

         「華炎天目茶碗」: 高さ 9.4 口径 13.2 cm 他多数

      ) 「禾目碧天目」: 青み掛かった黒色を背景に、金色(又は銀白色)の禾目が器の

        中央に向かって流れ込んでいます。口縁の禾目は細く、段々太さを増し、中央では全ての

        禾目が一体化しています。禾目は直線的ではなく、「うねうね」と湾曲しながら複雑に

        枝別れして伸びています。

        「禾目碧天目深鉢」: 高さ 14 口径 35 cm 

        「禾目碧天目茶碗」: 高さ 5.7 口径 13.2 cm 他多数

     ) 「曜黄天目」: 禾目天目と同じ様な文様に成りますが、禾目の色が黄色、又は黄褐色を

        した釉です。 「曜黄天目茶碗」: 高さ 7 口径 12.8 cm 

      ) 「極天々目」: 釉の流れが、面状に成って表現された作品です。

         木村氏は、点(油滴)から線(禾目)へ変化し、更に面(極天使)へと発展して行きます。

         オレンジ色、褐色、緑、青緑、黒などの色彩が複雑に絡み合いながら、器肌全体に流れ

         落ちている作品です。

         「極天柿紋壷」: 高さ 27 径 19.8 cm

         「極天花器」: 高さ 45.5 17 X 17 cm 

     尚、近年(平成21年)新しい天目の、「天空」を発表しています。

  追記: 天目釉は結晶釉です。結晶を成長させる為には、流れ易い釉にしなければ成りません。

     釉が棚板まで流れない様にする必要があります。その解決策として以下の方法があります。

     ・ 焼成温度が高過ぎると流れ易く成るため、温度を下げる方法があります。

       しかし、この方法では、温度調整が難しいです。窯の中全体が一定温度には成らず

       「バラツキ」が多い為です。

     ・ 釉を薄掛けにすれば流れは少なくなりますが、結晶が出来なかったり、成長しません。

     ・ ある程度の流れを予想して、高台脇から下は施釉しない方法です。

       これは一般的に行われている方法です。しかしこれでも十分ではありません。

     ・ 高台削りの際、口縁、胴、腰、の線(ライン)と、高台に続く線を分断する方法です。

       即ち、高台付け根の部分をわずかに(1~2mm)膨らませた、幅の狭い庇(ひさし)を

       設ける事です、 流れ落ちた釉は、この庇で堰き止められ、溜まる事になりますので、

       この膨らんだ庇の部分は釉の中に隠れる事になります。

次回(兼田昌尚氏)に続きます。

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