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米沢嘉博『戦後怪奇マンガ史』

2020-03-08 10:05:00 | ノンジャンル
 2019年に刊行された、米沢嘉博さんの『戦後怪奇マンガ史』を読みました。「編者より」の部分を全文転載させていただくと、

 本書は漫画評論家の故・米沢嘉博が生前に連載していた「戦後怪奇マンガ史」「恐怖マンガの系譜」を同題『戦後怪奇マンガ史』として一冊にまとめたものである。
 初出は30年前━━インターネットが一般化される以前の時代━━1986年秋から90年冬にかけて、当時のホラービデオブームにより五誌に及ぶホラー漫画専門誌が創刊されたのだが、その中の一誌である『ホラーハウス』(大陸書房)に全46回連載されたものに、書きおろしの解題および資料を加えたもの。戦後怪奇漫画のはじまりに近いとされる手塚治虫「ロストワールド」から、つのだじろう「新・うしろの百太郎」まで、「怪奇漫画」約40年間の流れをたどって概観した一大通史である。
 80年代当時、編者はこの連載を愛読し興奮していた。なぜかといえば、ここでは水木しげる、手塚治虫、わたなべまさこといった大御所ばかりでなく、当時神秘のヴェールをまとっていた竹内寛行、いばら美喜、陽気幽平などB級C級の異色作家たちにも細かく目配りされ、それぞれに評価がくだされていたからだ。
 しかし、どういう理由か、連載終了後、原稿は「お蔵入り」したようで、いつまでたっても単行本にまとめられない。そこで97年頃、当時編者が在籍していた某社に出版企画書を呈出したが、予想外の理由で却下されるという悔しい経験があった。今回、鉄人社が出版に理解を示してくれて、公刊できることを歓びたい。

「怪奇漫画」は、これまで、膨大に出版されてきた。世相や時代を反映しながら、赤本漫画、貸本漫画、初期少女漫画、少年漫画……手を替え品を替え、考えつくかぎりの本が出たし、過去の発刊された本のリストをつくるだけでも一冊の分厚い書物が出来上がるにちがいない。(*巻末に、かつて怪奇漫画の代表的出版者だった「ひばり書房」の怪奇マンガ総目録〈暫定版〉を付した)。現在も『本当にあった怖い話』とか『主婦の恐怖』など題名のついた分厚くて泥くさいホラー/怪奇漫画雑誌が、書店やコンビニでひっそりと売られている。メジャーではないが絶えることなく流通する「隠れた人気ジャンル」だ。
 これまで、楳図かずお、日野日出志など、個々の作家についての研究書はあったが、“通史”と呼ばれる本や類書は皆無だった。そのような本が何故ないのか。想像するに「怪奇漫画」では、人がバタバタと死ぬし、血しぶきなどの残虐な場面も多いため、作品として「冷遇」されている。怪奇漫画は、現実世界の陰に潜む思考をあぶり出す。いわば、排除不可能なジャンルだとも思うのだが、ハナッから調べる気もない評論家筋からは往々にして低く見られがちで、評論の俎上に上がってこない。作家や版元についての記録や回想なども余り残されていない。それゆえ一般に認知されない「裏通りの漫画」ではある。
 しかし米沢の持論は「マンガの最上の部分と最低の部分は〈変さ〉において通底している」(データハウス/『危ない1号』2号、米沢嘉博「ニッポン変態マンガ考」より)━━というものだった。この場合の「最低の部分」とは、米沢氏が多分、もっとも愛していた漫画の二大ジャンル━━「エロ漫画」と「怪奇漫画」━━を指すのだと思われる。編者はこの、米沢の考え方に同意する。

本書は、いままで日本で産みだされた怪奇漫画を過去に遡り体型的に編み、怪奇漫画総体に迫ろうとした初の試みだ。これは著者の独断場とも言えるもので、アナログ派(PCを使わない)、原稿は「ふとんに寝そべって、手書きで執筆する人」だった米沢は、脳に膨大な記憶のストックを所持し、彼しか知らないデータベースを長年かけて構築していた。だからこのように怪奇漫画の生きた流れを書き切ることに成功した。考えてみてほしい。怪奇漫画の歴史について、ここまで正面きって書かれた本があっただろうか。これは米沢嘉博にしか書けない本だ。

 つくづく思う。米沢はほんとうに怪奇漫画を愛していた。たとえば『ブラックパンチ』なんてB・C級雑誌を集めていた評論家なんて氏以外知らない。惜しくも53歳で亡くなられてしまったが、生きていたら、この本の出版をたぶん、とても喜んでくれたと思う。米沢嘉博が博捜(はくそう)した漫画の闇の系譜は、研究者のみならず、ホラーファンにも参照され、語り継がれていくにちがいない。本書を米沢嘉博と怪奇漫画への共感とともに墓前に捧げたい。(以上、敬称略)
                             2016・6・15 赤田祐一

 とにかく著者の博学ぶりに驚きます。そしてこの本を読むことによって、私は楳図かずおの『紅グモ』『赤んぼ少女』『ミイラ先生』『ねこ目の少女』、水木しげるの『悪魔くん』、つゆきサブローの『寄生人』、徳南晴一郎の『階段人間時計』を買うことになってしまいました。それだけ挑発的な本でした。

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