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倉谷滋『怪獣生物学入門』その1

2020-06-20 09:18:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、倉谷滋さんの2019年作品『怪獣生物学入門』を読みました。本文からいくつか文章を転載させていただくと、

・異様な生物を「モンスター」と呼ぶからには、その分類学的素性に興味を抱かずにはおれない。「ゴジラが哺乳類か爬虫類か」という疑問も、ゴジラの「モンスター性」の核心を問うものである。

・モンスターと純粋な生物学との間に関係がある必然性は一見ないが、人間が創作したものである以上、人間の感性が怪獣の設定やデザインに影響しないわけはなく、それを観る観客もまっとうな自然観や生物観の延長に恐怖の在所を見出すのである。(中略)あるいは、現実の自然を手本とし、その少し外側に「あったかもしれない別の進化の帰結」や「どこか他の星に存在するかもしれない、別の生態系」を夢想することもある。

・無論、「こんなのあり得ない」といった事柄に出くわすことは多い。生物学的変容や進化的多様性にはさまざまな限界が付きまとうが、人間の想像力はそこからある程度は逸脱することもできる。怪獣と呼ばれる異形の生物を夢想できるのである。
 とはいえ、「怪獣の不可能性」をあげつらうことが本書の目的なのではない。(中略)むしろ、あり得ないと分かっていることであっても、「もしそれが本当に起こったなら、科学的事実や法則の中でどれを捨てなければならないか、どこに矛盾が生ずるか」と考えてみたい。

・1958年生まれの私は、当然の如くして幼い頃から怪獣に嵌まり込み、いまもその嗜好は消えやらず、国産・外国産を問わず怪獣の造形については言いたいことが山のようにある。まずもって、モンスターは不可思議で、加えて「異形」の存在でなければならない。しかし、異形と言っても、木に竹を接いだようなへんてこなものは笑いすら誘えない。生物学的に自然で、かつ見たことがないようなものでなければならない。そこが中々に難しいところなのだと思う。

・(前略)トリには表情を作る筋肉が存在しないのだから。

・(前略)脊椎動物の原腸胚には「オーガナイザー」と呼ばれる特殊な部分があり、これを他の胚に移植すると、体軸が重複して出来てしまう。(中略)体軸を作る術を持たない周囲の細胞群を調教的に組織化し、新たにパターンを作り出すわけだ。こういった現象を「誘導」という。オーガナイザーの誘導能があるからこそ、動物は前後や背腹のある、メリハリの付いた体を持つことができるのである。

・数ある日本の怪獣・怪人映画の系譜にあって、『マタンゴ』は屈指の人間ドラマであった。久保明演ずる主人公の青年、村井が、最後まで英雄的行動を貫き通したことに関しては、いろいろと解釈がありうるだろう。が、それより何より、極限状態におかれた人間が、次第に人間性を失ってゆくドラマ性が素晴らしい。(後略)

・そもそも名前が凄いじゃないか、「マタンゴ」。ひとたび口にしたらもう元には戻れない。南の島にだけ棲息するという夢のキノコ、「マタンゴ」。その芳醇な風味と、それがもたらすえもいわれぬ恍惚感。マタンゴ経験は文字通り、あなたを一生変えてしまうだろう。なんか、日本酒の宣伝文句か、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」の歌詞のようだ。いや、まさにその通りだ。いいなぁ、マタンゴ。美味しそうだなぁ、マタンゴ。でも、決して食べちゃいけないのだ。

・(前略)中2の少年の心にも深々と突き刺さる、それはそれは見事な人物描写であったというべきだった。しかしまぁ、あの水野久美や、佐原健二や、土屋嘉男など、いつも東宝特撮映画で話の分かるお兄さん、お姉さんを演じてくれていた俳優たちが、いわゆる「本物の大人」として、人間の本性剝き出しの醜い争いを演じていたわけで、それは子供にしてみれば、親の喧嘩を延々と見せられているようなものだったのであろう。これで辛くないわけがない。

・いずれにせよ、50年代以降、放射能は日米の映画の中でさまざまな怪物を作り出してきた。まるで万能薬のように。『隔週刊 ゴジラ全映画DVDコレクターズBOX VOL.54 マタンゴ』には、漫画版『マタンゴ』が付録で付いているが、これがなかなか素晴らしい出来で、読み応えがある。それもそのはず、石森章太郎(故・石ノ森章太郎)の作だった。

・理屈では正しくとも、情緒や本能がそれを拒むというのが人間である。ハチに擬態した昆虫がいくら無害であるからといって、その正体が分かっていてもなお、素手でそれを掴むのに抵抗感を覚えるのが人間である。動物学者で昆虫好きの私でさえそうなのだから、情緒や本能をつかさどる大脳辺縁系の支配力というのは相当に強いのだ。論理的思考が、しょせん後付けのものに過ぎないからそういうことになる。

(明日へ続きます……)

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto