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神代辰巳監督『四畳半襖の裏張り』その3

2020-11-19 05:27:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

 森。「あなた、あの人と切れてくれるんでしょ? 知らばっくれて。知ってますよ。あんたが芸者屋をやってらっしゃる」「別れるよ」「本気なんですね。人が来たらどうします?」「かまうもんか」「いやですよ。犬じゃあるまいし」「犬も人間もこの道は変わりゃしねえよ」。
“女房は三度の飯なり。しかし屋台の立喰い、忘れがたき味あり。この理(ことわり)知らば、女房たるもの、何ぞ嫉(や)くに及ばんや”の字幕。走る人力車。夜。男「車屋さん、ちょっと寒くなった。幌を降ろしてくれ。これ、取っとけ。その代わり、止まらずにどこまでも走るんだ」。
 花江も人力車に乗り、男と袖子の乗る人力車に並ぶ。花江「もし、車の中のお方、分かってるんです。(中略)あたし、花江でございます」男「嫌な女に見つかった。よりによってこんな時に」「ご結婚なさったそうですね。おめでとうございます。(中略)そりゃ一時は大変くやしゅうございました。でもどうせ泥水稼業。おもちゃにされるのは当たり前のこと。もう恨んではありません。でもどうしても話さなければならないことがございます。車を停めて、あたしの話を聞いて下さい」車夫「どうします? 旦那」「走るんだ」「へい」(中略)花江「追いついて」。“この女も貧民窟の生れ。十五、六になれば芸者になるか女工になるか。二つに一つ。おきまりに芸者に売られて女奴隷”の字幕。花江「旦那、そうですか。私をそこまでバカにするんですか。ようございます。あたしのお腹の中にあなたの子供が入っています。その子が生まれたら、教えてやりましょう。お前のお父さんがどんなに人非人だったか」。
 花江「今晩は」。部屋に入ると、男が全裸でぶらさがっている。「俺、怠け者。あのうちはお前にくれてやる。子供の養育費は払う。それで手を打とう」。
「号外! 号外! シベリア出兵だよ!」。
“大正7年8月 シベリア出兵”の字幕。(中略)
“行きつく先は色地獄”の字幕。
 そろばん。女「今晩は」袖子「あら、まだ日が高いわよ」「そうでした。女将さん。すっかり幸せそう」「からかうんじゃないよ。二階で兵隊さんがお待ちかねだよ」。女、二階に。男が入ってくる。袖子「あら、お早いのね。やーね。真昼間から」「負けずにこっちもやるか?」「あら、ホント? 近頃はちっともおかまいなしだったのに。あなた、あの子と何かあるんでしょ?」「何の話だ?」「あるんですね」「よせよ、バカ。いいかげんにせんか。バカ」。
 兵隊「シベリアに出兵することになりそうだ」「シベリアってロシアの?」「ああ」「いつ?」「もう会えないよ」「そんなにすぐ? いつ帰れる?」「戦争に行くんだよ。わからないよ」「ちゃんと言ってくれないから。ちゃんと早めに言ってくれなくちゃ。お客なんて断って飛んで来たのに。バカみたい。(中略)」「時間がないんだよ」「いや。あとどれくらいいられる?」「5分」「たった5分?」。
 袖子「嫌ですわ。もうですよ」「ん?」「近頃の若い子ときたら、しょうがないんだから」「泣いているんじゃないか?」「ちがいますよ」「そうかな、おい、こっちも」「嫌ですよ」。
 女「これが最後かもしれないのに。(中略)年季が明けたら田舎の田んぼを買い戻そうって。(中略)体を大事にしてね」。
 天井が揺れ始める。男「お前さんが当たったようだな」「そうですよ」「あー、安普請だな」。男、袖子の胸に手を入れようとするが拒まれる。「おい」「嫌です」「頼むよ」「いい年してこうなんですからねえ」。
 女「ロシア行っても浮気しちゃダメよ。帰ってきてね」。歌が聞こえてくる。自分の陰毛をちぎり「これ、あたしの。持ってって。弾よけになるでしょ。大事にしてね。あたし、守ってあげるから」「逃げたら銃殺だ」。
 袖子「早くですよ。人が来ます」。女「女将さん、ちょっとそこまで送ってきます」。
 走る兵隊と追う女。上官「芸者とマラソンとは何事だ」と兵隊を殴る。
 後背位でする男と袖子。それに走る花丸のカットバック。
 花丸「御免下さい」袖子「びっくりするじゃない。幽霊みたいにそっと。どうしたの? さあ、お入り」「すみません。あのーご相談があって参りました」「何なの? そんなに改まって」「あのー、どなたか私を水上げして下さる方を探していただけないでしょうか?」「何を言うんだね。この子は。藪から棒に。第一、そんなこと、ここでいうのは筋違いだよ。花江姉さんに頼むならともかく」「ええ、でも花江姉さんが。私本当にあのうち逃げ出したいんです。でも借金もありますし。あのー、早く水上げして下さる方を」。
 「松島~の♪」と歌を歌いながら、天井に止まっているハエを取る花江の姿で、映画は終わる。

 宮下順子さんの代表作の一つです。

 →「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~moto

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