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山本健人『すばらしい人体』その1

2022-10-08 08:05:32 | 日記
 山本健人さんの2021年作品『すばらしい人体』を読みました。
「おわりに」の部分を転載させていただくと、
「心臓が動き、全身を血液がめぐる。
食べたものが、体を動かすエネルギーに変わる。
たった一つの受精卵が、立派な体に成長する。
親の特徴が、子に遺伝する。

人体は本当によくできていて、美しく、神秘的だ。
だがこれらの現象は、自然界で普遍的に起こりうる化学反応の連鎖によるものだ。
 何か特別な、目に見えない超自然的な力を信じたくなるほどよくできたしくみが、実は化学や物理の法則によって説明できる。医学という学問は、長い年月をかけてこのことを解き明かし、サイエンスの一角を担ってきた。
人体は、自然界に無数にある有機物と、それほど大きく違わない。
医学の進歩が明らかにしてきたこの事実に、落胆する人は多いかもしれない。
だが私はむしろ、ここに医学の面白さがあると思う。自然界に存在する「ありあわせの材料」だけでこのシステムがつくられていることにこそ、途方もない神秘を感じるからだ。そして、医学がサイエンスであるからこそ、体に起きた病気をサイエンスの言葉で説明でき、その治療手段もなた、サイエンスによって生み出すことができるのだ。
私が医学に魅せられたのは、一見混沌とした人体と病気のシステムが、理路整然と「科学的に説明可能」であることを知ったからである。

では、これからの医学の未来は、どうなっていくのだろうか。
これまでの医学は、人類がともに病気と戦い、打ち負かす手段を提供してきた。医学の進歩によって人の寿命は延び、多くの病気が克服され、集団の死亡率は著しく定価した。
まさに、人類が力を合わせ、共通の敵と戦う時代であったと思う。
一方、これからは個人が固有の武器を手にし、それぞれの敵と戦う時代が訪れるだろう。人類は一つの種だが、一人一人がそれぞれ別の個体であり、それぞれに異なる科学的、遺伝学的な特徴を持つ。当然ながら、同じ病気にかかった集団が、薬に全く同じ反応を示すわけではない。個々人に合ったテーラーメイドな治療が提供できるなら、それが理想的だ。こうした考え方を「個別化医療(プレシジョンメディシン)」という。ゲノムデータ解析技術の進歩によって、こうしたしくみは徐々に具現化しつつある。
例えば服を買うとき、S、M、Lの三種類から選ぶより、体の各部位を計測してオーダーする法が、体にフィットするものが得られるはずだ。それと同じである。
また、科学技術の革新は、今後も医学に大きな恩恵をもたらすだろう。AIを用いた高精度な診断や、手術をナビゲーションするしくみは着実に進歩している。百年後の医学は、今から想像もつかない形で人類を病気から救っているに違いない。

本書の企画を立案し、テーマの剪定に協力してくださったのは、ダイヤモンド社の田畑博文さんである。田畑さんが私に指南されたのは、「すみずみまで知識を網羅した」という心地よい読後感を読者に提供することだった。人体を扱うなら、頭から爪先まで。医学を扱うなら、過去から未来まで。山の上から広々と景色を見渡すように知識を俯瞰(ふかん)できれば、これほど気持ちの良いことはない。
むろん、医学という学問全体を網羅的に語るなど、あまりに畏れ多く、あまりにおこがましい試みだ。だが、医学の楽しさを伝え、多くの人の知的好奇心を満たす、そういう本は間違いなく「誰かが」つくるべきだ。読みたい人はきっと多いはずだ。何より、私が読みたい。

科学の世界においては、普遍的に「正しい」真実は存在しない。学問の進歩とともにその「正しさ」は絶えず変化するものである。また歴史的事実の解釈も、人によって異なるはずだ。あくまで参考とした文献をもとに、私の目を通して見た世界を描いたものである。誰がが医学を学ぶときの、一つの「入り口」になればと思う。」

(明日へ続きます……)


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