雨模様をうけ、今日の山行は中止になった。予定にない自由の時間を利用して山の仲間が集まって、夏山の小屋泊まりの山行について話合った。山行が中止になっても山好きの仲間たちとの会話は楽しい。午前の時間があっという間に過ぎてしまった。午後、経済学者で詩人の河上博士の詩を読んでみた。最近、スマホやパソコンで目を使過ぎたせいか、長編の小説などはなかなか読めない。治安維持法で獄中生活を送った河上博士は、入牢していた5年間、官憲に許された漢詩全集(陶淵明、王維、李白、杜甫、白居易、蘇軾)を読破、漢詩を自家薬籠中の物とした。出獄してから独学して作り始めた漢詩が高い評価を受けている。年老いた自分を老馬や病蛙に喩えた詩は心に残る。
河上博士は、漢詩のほかに詩作も試みている。「老後無事」という詩では、「飢え来ればすなわち食ひ、渇き来ればすなわち飲み、疲れ去ればすなわち眠る。古人いふ無事是貴人」の句が心を打つ。博士のこういう心境を理解できる年齢に達したというべきか。「味噌」も長い詩だが、味噌の好きな博士が、味噌屋を訪ねると、「奥さんが留守で大変だね」とおかみさんが、だまって倍量に味噌をわけてくれる。鍋で煮ていた里芋に味噌を加えて食する場面は、読むものに感動を覚えさせる。
帰りてみれば 机べの
火鉢にかけし里芋の
はや軟らかく煮えてあり
ふるさとのわがやのせどの芋ぞと
送り越したる赤芋の
大きなるがはや煮えてあり
持ち帰りたる白味噌に
僅かばかりの砂糖まぜ
芋にかけて煮て食うぶ
どろどろにとけし熱き芋
ほかほかと湯気たてて
美味これに加ふるなく
うましうましとひとりごち
(以下略) 河上肇
博士の晩年にえたこのような心境は、老いにたどりつける最高の境地に思える。雨の日に読んだ、詩の数行がかくも豊かに心に響いてくることに驚きを禁じえない。
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