日本では原発反対デモがなぜ起きないのだろう

　「ヒマだったら、お茶しませんか」と誘っていただいた。何しろ車がないので、家にいることが多いから、そんな電話は嬉しい。早速、原発の話になった。「もうダメですよ。日本沈没ですね」と肩を落とす。「そうかも知れないけど、そんなに嘆いてみても仕方ない。原発のリスクがいかに大きいか、よくわかったのではないの」。原発はクリーンエネルギーだと言っていたけれど、それはとんでもないウソだった。今はまだ見えないが、今後も被害は広がるだろう。ドイツの気象庁が出していた放射能拡散予想図では、南の茨城県から東京都や千葉県へと広がるとあった。

　「東京がやられて初めてことの重大さに気が付くのかもね」と言うと、「成長の限界ということを知っている？」と聞く。「知らないけど、何？」と尋ねる。１９７０年代に流行した学説で、人間の経済活動が頂点に達した時、一気に崩れるというものだそうだ。ああ、確かに人間の経済活動は頂点に近づいているだろう。地震の影響で、アメリカの車産業は部品が日本から輸入できなくて操業できないそうだ。今やひとつの国で全てをまかなっている産業はないのかも知れない。いろんな国に分散してパーツを作り、それを合わせて製品を完成させている。日本の家電製品もほとんどがベトナムやインドネシアだという。

　ひとつの国だけがぼろ儲けが出来る時代はなくなりつつある。産業革命がもたらした経済システムが転換期を迎えているのだろう。うまく転換できなければ、自滅だ。池の中のホテイアオイの話を思い出す。ホテイアオイは１個が２個にと増えていくのだが、池の１０分の１の時は誰も気が付かなかった。４分の１くらいになって始めて気が付く人がいたけれど、そんなに危機感は持たなかった。そう２分の１になっても、まだ半分でしかないと思っている人が多かったが、その次に、池はホテイアオイで全て被い尽くされた。そしてホテイアオイは自滅した。人間もそうした道を辿るのかも知れない。

　ところで、そのベトナムやインドネシアで募金運動が展開されている。日本よりも貧しいと言われている国で、日本を助けたいと子どもたちもお金を出している。アメリカやロシアやドイツやフランスなどでも募金運動が行なわれている。外国から支援のスタッフも派遣されているのに、日本の窓口がどこなのか、誰に言えば支援活動に従事できるのか、ハッキリしなくて困っているという。官僚機構があまりにも整いすぎていたので、想定外の事態に対応できないのだ。お上が崩れると何も出来なくなってしまう弱さが日本にはあるようだ。

　「それにしても、ドイツやフランスで原発反対のデモが行なわれているのに、原発被害の日本で反対デモがどうして起こらないのだろう」。日本のように２千年もの長きにわたって官僚が治めてきた国では、この場に至ってもまだ官僚からの指示がなければ動けないのだろうか。「全く困ったものだね。それでも少しずつは変わっていくのだろうけれど、経済活動のスピードはもっと速いから、やはり追いつけないのかなあー」。冷めたコーヒーは苦くなっていた。