九州旅行はアクシデント続きだったが、最終日の帰り道が最大の危機だった。高速の山陽道に入った頃はもうすっかり暗くなっていた。岡山県と兵庫県の県境辺りだっただろうか、私は運転席の後だったので、チラッとしか見えなかったけれど、道路上に何かがあり、運転者はビックリしたけれどハンドルを切る間もなくそれに乗り上げた。ドッ、ドッと車体に物が当たる音がした。けれども車はブレたりすることもなく高速を維持して走ることが出来た。
何かに当たったことは事実だから、走り続けられるのか車を点検しなくてはならない。次のサービスエリアに止まって車を見ると、タイヤは無事でだが左側のドアの下にキズがある。それに左側前輪の泥除けも無くなっている。落下物のためにさらに事故が起きる可能性だってある。緊急電話で高速道路を警備する警察に電話をすると、事情を聞くのでその場にいて欲しいと言うことのようだ。おかげでそのサービスエリアに1時間20分も留まることになった。
ところが、事故に遭ったのは私たちの車だけではなかった。サービスエリアに止まっていたポルシェを運転していた男が、やはり事故のことを警察に電話していた。見るとポルシェの左前輪のカバーがはずれかかっている。事故が起きる前、私たちの車を追い越して行った外車だ。落下物はタイヤのようだという。どうしてタイヤが落ちていたのだろう。タイヤを運搬しているような車は見かけなかったから不思議な気がする。警察官の話ではまだ落下物を探しきれていないようだ。
みんなは「腹が減っては戦が出来ない」と食堂でソバなどを食べていたが、私は食欲がなかったのでみやげ物などを見ていた。すると若い男がやって来ていきなりテーブル越しにレジを操作してお金を掴み、タバコの包みを手にして出て行った。エッ、強盗?余りに堂々としていたから違うだろうと思ったが、傍にいた女性店員に「今の人は店員?」と聞いてみた。「非番で休みなのです」と言う。「強盗かと思った。それにしても失礼なヤツだね。あなたに何も言わずに」と皮肉を込めて言ってみたが、反応はなかった。
来ていた警察官に知らせた方がいいのか、またまた面倒なことは避けたほうがいいのか、迷ったが結局、止めた。どういう事情か分からないし、女性店員が騒がないのだから何事もなかったのだろう。落下物に当たったけれど、全員無事に帰宅できただけでヨシとしよう。まだ運は残っている。