風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

帰国子女の悩み

2009-09-22 11:54:32 | 日々の生活
 下の子は、幼稚園年長になった夏に、私の転勤に付き合ってペナンに移りました。ペナンでは8月末から新学期が始まるので、半年繰り上げて小学校に入学し、丸三年間、インターナショナル・スクール(以下、インター)に通いました。昨年7月にシドニーに移ってからは、南半球シドニーの新学期が夏休み明けの1月末に始まるので、小学三年を半年間ダブり、小学四年を半年間修めました。
 このように、子供は日本の学校をほとんど知りません。帰国して、住まいを決めて、住民票の転入手続きを取り、教育委員会に出頭して、事情を話して、アメリカン・スクールかインターに通わせたいと申し出ると、文部省が認可しない学校で学ばせるのは義務教育違反だと通告されました。寝耳に水とは、こういうことを言うのでしょう。
 ペナンには日本人学校もありますが、異文化を学ばせるために敢えてインターを選びました。30ヶ国以上の国籍の子供たちが集まる場は、日本にいたら探そうと思ってもそうそう見つかるものではありません。私のように会社に入るまで日本の外に出たことがなく、いきなり海外の仕事に携わり、言葉と文化のハンディを感じ続けてきた者にとっては、羨ましいほどの環境です。シドニーでも、日本人学校はありましたが、地元の公立学校に通わせました。思えば軽はずみな行動でした。
 海外あまねく日本人学校を作って、国境を越えてもシームレスに日本の学校制度の下で学ばせる環境を整えているのであれば、日本で義務教育違反を問うのも筋が通ります。確かに世界の大都市にはだいたい日本人学校が設置されており、海外派遣日本人のかなりの部分はカバーされると思います。しかし広い世界にはそうでないところもあり、仕方なくインターに通わせ、帰国後も、教育カリキュラムや子供たちの習慣などの点で馴染んだインターに通わせたいと思う親もいるはずです。そうした場合でも義務教育違反だからと無理やり日本の学校に通わせなければならないのか、教育委員会の担当の人にやんわりと尋ねたところ、日本の公立学校に籍を置いて、形の上で義務教育違反を免れつつ、実際には通学しないで、インターに通っている子供たちも例外的にいるのだと、言いにくそうに話してくれました。
 好んで法律違反を犯したい人などいません。しかし、実際に帰国子女を受け入れている日本の小学校の話を聞いて見ると、小学校四年生レベルでは、遅れた日本の教科をフォロー・アップするというのが帰国子女受け入れの実態で、折角覚えた英語力を伸ばそうという学校はほとんどなく、ましてや積極的に異文化環境を作っている学校に至っては皆無です。私立の中学校ですら、外国人教師はせいぜい一人か二人で、週に一時間から三時間程度の上級英語クラスがあるのが関の山です。
 こうした考え方に対しては、日本人である限りは、小学生から中学生になる頃までに、日本の教育をしっかり受けさせるべき、すなわち日本語で論理的に思考する習慣をしっかり身につけさせるべきだという有力な反論があるでしょう。それはまさにその通りで、私も子供はやはり日本人であって欲しいので、自ら軽はずみな行動と称したように、悩むところなのです。ところが私が想定した以上に、子供は英語環境に馴染んでしまった。日本の社会にソフト・ランディングする都合の良い受け入れ体制はありません。
 日本のインターの実態は、海外からの日本駐在家族が過半数で、残りは片親が外国人(つまりハーフ)である場合が多いようです。学費も年間200万円前後というのが相場で、外務省や企業から派遣されて日本に駐在し、外務省や企業が教育費を肩代わりしてくれるというのでもなければ、とても普通の家庭が負担できる金額ではありません。こうして、折角、身についた英語や生活習慣を捨てて、日本に急速に馴染ませられる帰国子女は多いことでしょう。制度的な不備が、日本を海外から遠ざけている、これも小さな一例と言えそうです。
 上の写真はペナン島の子供たち(肖像権侵害ですが、既に3年以上経ち人相も変わったでしょうし、いつもより小さめサイズにしますのでご容赦ください)。
コメント (2)
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