風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

不全

2009-11-10 23:02:11 | 時事放談
 「不全」とは、goo辞書によると、「物事の状態や活動のしかたが完全でないこと、十分でないこと、また、そのさま」であり、三省堂Web辞書には「不完全」と一言書かれているだけです。使用例として「発育不全」「心不全」のほか「呼吸不全」「免疫不全」など、もともと医学用語が多いようですが、最近は、「戦略不全」といった言い方も見かけます。
 以下の引用は、東大が始めたリーダー養成機関「EMP」について、そのアドバイザー・大上二三雄氏が日経ビジネスで語った言葉です。
 ・・・・・東大の問題だけではなく、いま日本全体がマネジメント不全に陥っているのではないかと思います。何が不全なのかと言うと、物事を成し遂げられるか否かは、いわゆるリーダーと呼ばれる人たちの力量に起因している部分がとても多いんです。リーダー達はみな高いスキルや知識を備えていますが、リーダーシップを発揮して行くべき方向をしっかりと定めることができないケースが多いのではないでしょうか。例えば、このプログラム(注:EMPのこと)でも技術論としてのマネジメント知識の講義があり、日本を代表するコンサルタントに話をしてもらっています。そのような授業に、受講生は「それはもう知っている」と反応します。そこで、どこまで出来ているのかを問うと、皆、黙ってしまう。いわゆる、古くて新しい問題です。なぜ知っていてもできないのか。そこが問題なんです。知っていても出来ない。そのことがマネジメント不全を象徴していると思います・・・・・・
 「マネジメント不全」という言葉も出て来ました。わかっちゃいるけど止められない、という歌がありましたが、わかっているけど出来ていない、という問題です。私の会社を見ていても、知人の話を聞いていても、日本人はおしなべて優秀で、所謂事情通であり、調査や分析に時間をかけるだけに資料作りは上手で素晴らしいプレゼンテーションも行なわれますが、実行の段階になるとぱっとしない、結果として業績があがらない、というような事態がよく見られるように思われます。同じような意味合いで、評論家はいるけど実行者がいないとも言われ、また計画は良く出来ているけれど実行が伴わないとも言われるのは、どうやら「不全」状態と言ってよいかも知れません。一事が万事とは言いませんが、なんだか今の日本の閉塞状況を象徴しているようです。
 因みに上の日経ビジネスからの引用には続きがあります。
 ・・・・・(中略)リーダーは一歩前に出ればみんなが付いていくような存在でなければいけません。人を惹き付けてみんなの先頭に立つ。そういう力を付けることがマネジメントだと思います。今、日本に不足しているのは、人間力に裏打ちされたマネジメント能力なんです・・・・・・
 かつてオバマ大統領以前に黒人最初の大統領候補の呼び声が高かった人がいました。湾岸戦争当時のコリン・パウエル統合参謀本部議長(後、ブッシュJr政権で国務長官)で、その彼が「マネジメントは科学、リーダーシップはアート」というようなことを言われていたのを、今でも思い出します。アメリカのMBAに倣って日本でも大学院が開校され、マネジメント教育が広まっていますが、リーダーシップ教育は、アートだと言われるだけあって教えるのは難しそうです。
 今、阿川弘之さんの海軍提督三部作の一つ「米内光政」を読んでいますが、米内さん(帝国海軍大将、戦前・戦中の海相及び総理大臣経験者)は、もし太平洋戦争のような危機的状況がなければ、全く表舞台に出てくるような人ではなかったと言われます。状況が人をつくったのは間違いありません。もともと飛び抜けたリーダーシップは出て来にくい日本ですが、それにしても今の日本で、特に小泉さん以降はリーダーシップを感じません。人を作れないほど枯渇しているわけでもないでしょうに、実はそれほど危機的な状況ではないのでしょうか。
 上の写真は、アートはアートでも、文字通りのアート、バティク・アートです。バティクというのはインドネシアやマレーシアのロウケツ染めで、ペナンのジョージタウンを映したもの。パステル調の、無限のグラデーションがお気に入りの一品です。
コメント
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