風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

木製シャンパン・クーラー

2010-02-07 15:26:22 | 日々の生活
 この週末のTV番組で、京都の桶職人・中川周士さんが作成した木製のシャンパン・クーラーが、ドン・ペリニヨンの公式商品と認定され、ロゴをつけて販売されることになったことが紹介されていたのが印象に残りました。
 シャンパンのボトルはお尻がぼてっと太っていて、冷蔵庫で冷やすと時間がかかるため、通常は保冷性に優れたステンレス製のクーラーが使われます。オンライン・ショッピングの解説を見ると、1万円の予算でそこそこのものが、ちょっと気合いを入れて3万円出せば申し分ないものが手に入ると書かれています。これに対して、中川さんの作品は、素材に高野槇(こうやまき)を使い、木肌が滑らかで白くて美しく、値段は破格の8万円だそうです。通常の桶の断面は円形であるところ、この作品は楕円形で、微妙なカーブが難しかったと言いますが、200丁のカンナを使い分け、鉄くぎなしに、十分の一ミリ以下の精度で木材を削って組み合わせる指物の技術で、一ヶ月に30個作るのがせいぜいと言いますから、むべなるかな。
 高野槇は、世界三大造園木の一つで、木曽五木の一つでもあり、水に強くて朽ちにくいことから、古代には棺桶の材料として、現在でも風呂の湯船や橋梁などに用いられる高級木材だそうです。秋篠宮家の悠仁さまのお印にもなったのは、常緑針葉高木で、高さ30~40メートル、直径1メートルにもなる巨木で、「大きく、まっすぐ育ってほしい」という気持ちが込められているからだとか。シャンパン・クーラーでも、その保冷能力の高さと結露しにくい機能性が生かされています。
 職人は、フランスでアルチザンと呼ばれ、ドイツではマイスターと呼ばれて、これらの国々では職人の伝統が息づいています。仕事に誇りを持ち、高いクオリティを目指す職人芸が尊ばれるフランスで、日本の伝統的な職人芸が高く評価されたのが嬉しい。ドンペリの醸造最高責任者によると「時間をかけて育つ木を使い、多くの制約があってこそ生まれる作品」には、ゆっくりと熟成させるワイン作りに通じるものがあったようです。しかもシャンパンという西洋らしさと、木製という日本らしさが合わさったところが斬新です。コンサルタント会社が両者を繋いで実現したそうですが、職人大国・日本の行く末を暗示するようです。
 なお、中川さんの工房で作られた手桶は3万円弱と、こちらもまた破格ですが、何世代も使い継げるエコ商品として、高いとみるか安いと見るか・・・と言うよりも、私にとっては値段の問題ではなく、檜風呂でもないのに高野槇の手桶というのは、なんとも不釣合いに映ります。浅田次郎さんの作品「地下鉄に乗って」には、大正から昭和初期の、ピカピカの日本が描写されていますが、ここで言うピカピカという意味は、あの頃の建築物にしろ、乗り物や洋服など身の回りの品にしろ、素材は大理石や金や絹など全て本物だったということです。今や工業用ダイヤモンドもあるくらいで、巷には合成素材が溢れており、こうした商品に誰でも手が届くようになった一方で、素材や品質は劣化しているところが、大衆化の本質でしょう。大学も、そう言われて久しい。日本古来の伝統的職人芸にとっての危機は、職人芸が生かされる環境が私たちの周囲から消え、安物のフェイクに慣らされた私たち自身が目利きではなくなっているところにありそうです。工業化社会や大衆化が行き着く先に、果たして高いクオリティを求める時代が来るのでしょうか(それが来ないと日本の将来は暗いという気がしますが)。
コメント
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