風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

プロフェッショナル

2010-12-25 11:13:32 | スポーツ・芸能好き
 先日の報道ステーションで、サッカー審判員の西村雄一氏が紹介されていました。いつもにも増して日本代表が活躍した名場面がいくつも浮かぶ今年のFIFAワールドカップでしたが、準々決勝(オランダ対ブラジル戦)を含む4試合で主審を務めたのは日本人で4人目、準決勝(ウルグアイ対オランダ戦)に続き決勝(オランダ対スペイン戦)でも第4審判員を務め、決勝の審判団に名を連ねたのは日本人として初めての快挙だそうです。サッカー音痴の私は西村氏の存在を全く知りませんでしたが、もう一人の日本代表です。
 調べてみると、ただでさえドイツ-イングランド戦を含め「誤審」が問題となった今回のW杯で、そもそもサッカーがそれほど強くない国の審判として信頼性に懐疑的な目を向けられる中で、西村氏の冷静な判断は常に高い評価を得ていたようでした。
 とりわけ西村氏の審判振りを際立たせた場面として、準々決勝のオランダ-ブラジル戦73分、ブラジルのフェリペメロ選手に対してレッドカードを出した場面を、報道ステーションは取り上げていました。フェリペメロ選手が倒れた選手の太ももを故意に踏みつけたのは、超スローのビデオ映像から明らかでしたが、広い競技場で目まぐるしく試合が流れる中の一瞬の出来事です。いざグランドに立つと、選手が入り乱れて視界が遮られることが多く、実際にフェリペメロ選手のスパイクそのものは西村氏の位置からは見えなかったと言います。それでも躊躇なくレッドカードを出したのは、踏み出した足が着地せずに戻ったところを確認したからだと淡々と述べておられましたが、あらゆる状況を想定して準備ができていた上に試合に集中していたからこそ成しえた神業でしょう。当時のドイツ公共放送「ARD」の実況アナウンサーは、「ニシムラは反則をよく見ていた」と絶賛したそうですが、反則を見ていたというより状況を判断したのでしょう。オランダ代表のファン・ボメル選手は、試合後のインタビューで、「両チームが審判と一緒に試合をした」と西村氏を高く評価したそうです。審判はMF並みに一試合で12Km動くそうで、そのための鍛錬を常日頃から欠かさず、審判はともすれば敵のように見られるけれども、選手と一緒にゲームをつくる存在であり、審判は選手のためにあることを信念とする西村氏には、これ以上ない褒め言葉でしょう。当のフェリペメロ選手からも、試合後、ブラジル・チームの関係者の手を通してユニフォームが贈られてきたそうですが、反則を犯して退場した選手からも一目置かれたのですから、立派です。
 月曜日のNHKプロフェッショナル・仕事の流儀では、長谷川穂積選手が登場しました。強い相手との対戦にこだわり続ける強い闘争心と、彼の才能・・・相手の出方を読む勘に優れ、ぎりぎりのところでかわす天性のディフェンス能力と、飛び抜けたバランス感覚ゆえに可能とされる高速連打、スピードを出すために肩から先の力を抜いてムチのように腕をしならせると言われる左ストレート・・・を私はこよなく愛します。しかし、番組で興味を惹いたのは、トレーナー・山下正人氏の存在でした。ボクサー経験が全くない兵庫県警・暴力団対策刑事から転身し、トレーナーとして長谷川選手を世界チャンピオンに育てあげ、今はジムを経営しています。
 当初、パンチをミットで受けようとしても、速くてタイミングが合わなかったと言い、海外トレーナーの練習方法をビデオで研究したり、各地の試合に出向いて他の選手の練習を見て技術を盗んでは、トレーナーとして必要な技術を習得していったそうです。週末には長谷川選手をお好み焼き屋へ連れ出して、何をしてほしいか尋ね、刑事として容疑者の心理を読むことで磨かれた洞察力で、「相手のくせをすぐに見抜く」と長谷川選手からも信頼され、所属したジムと方針の違いから引退を仄めかした長谷川選手のために、とうとうジムを作ってしまいました。
 スポットライトを浴びるのは常に選手であり、その栄光は、多くの裏方の人たちの努力によって支えられている・・・などと文部省推薦文めいたことを書きたいわけではありません。人それぞれの生き様が面白い。この齢になってようやく、信念に殉じる生き方が潔く美しい、と、しみじみ思います。まあ、哲学者シオランが言うように、こうしたことは実は二十歳の頃に既に頭では分かっていたことですけどね・・・
コメント
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