風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

イチローの2011年

2011-10-02 17:55:14 | スポーツ・芸能好き
 毎年、期待通りの活躍で、見る者を安心させて来たイチロー選手の快挙が、今年、止まりました。月間打率が3割を超えたのは4月だけで、5月には2割1分と極端な不振に陥り、その後も好調な時期はあったものの持続することができず、200安打に16本届かない、通算677打数184安打(2割7分2厘)に終わりました。米国USAトゥデーの9月21日電子版では、今季の大リーグで最も期待外れに終わった10選手の1人としてイチローを挙げたそうですが、期待値が高かったゆえの反動です。
 こうしたイチローの突然の不振について、今月22日には38歳の誕生日を迎えるイチローの体力の衰えを指摘する声が多いのは当然でしょう(王さんが最後に50本の本塁打を打ったのも37歳のシーズンでした)。最近、大リーグ・ニュースを(多分、張本さんの意向で)避けてきたサンデーモーニングのスポーツ・コーナーで、今日、久しぶりにイチローの成績が話題になり、張本さんは、打ってから一塁に向かう一歩を踏み出すのが遅くなったというようなことを述べていました。オリックス時代からイチローの打撃フォームを分析してきた中京大スポーツ科学部の湯浅景元教授も、「速い打球を打てないことで安打が少なくなった。さらに、一塁に走り込む走力がわずかに遅くなっている」と述べ、長打率が落ちたことからも、「一瞬に大きな力を引き出す速筋に衰えが出た」と分析しています。
 実際に、イチローが得意とする内野安打の数は、昨年66本、過去4年の平均でも60本でしたが、今季は42本しかなく、200本に届かなかった差分に相当するのが象徴的です。併殺打が11本と過去最多だったとする報道もあります。ピート・ローズ氏は、内野安打に関して、「安打の3割近くが内野安打だったのが、2割以下に減っていることも挙げられるだろう」、「今季はア・リーグの投手の出来が良かったということもあるだろうが、今季は右方向へのゴロが多く、(内野安打を稼ぎやすい)左方向への打球が少なかったような気がする」と指摘しました。チームの他のバッターが不振だったため、他チームの投手はイチロー対策に集中しやすかった利点を挙げる声もあります。
 「継続」ということでは、2004年に小学5年生の道徳副読本の教材として登場し、連続試合出場の「継続」の大切さを伝えたそうですが(Wikipedia)、途切れたとは言え、大リーグで10年連続シーズン打率3割と200安打(おまけにオールスター連続出場)、打率3割とオールスター出場に至っては日米通算17年連続というのは、あらためて偉大な記録です。イチローと言えども人の子、衰えが出始めたと言っても不思議はありませんが、「継続」したレベルが凄すぎます。そのためか、ずっと継続してきたことが終わった寂しさがあるかと聞かれて、次のように答えています。

 「いやあの~、結構難しいんですよ、200本って(笑)。多分、皆さんが思うよりもちょっと難しいぐらい、難しいんですよね。難しいので、やっぱ特別なんですよ。こうやって出来ないことがあると、やっぱり200ってすげえなあって。」「今までず~っとやってきて、寂しさが来るかなと思ったんですけど、もうそんな感じではないんですよね。で、動揺する感じでもないんですよ。そういう日が来ることを想像するとこう、ひょっとしたらすごく動揺する自分が出てくるかなあと思ったんですけど、ないんですよね、それも。まあそれは多分、やっぱ難しいとずっと感じてきて、ぎりぎりのとこでやって来た、という多分、自負があるからなんでしょうね。まあ余裕を持って出来たのは実質3回ぐらいだったので、10回のうち。毎年っていうか、よく言ってましたけど、今年で、止まってもいい。でも今年はやりたい、近づいてくるとね。そういう感覚でずっとやっていたので。なんかこう寂しいとかっていう感じでもないんですよね、実は。」

 10年連続の記録を達成してからは、「それはまあ、明らかに違うよね、今までとは。まあ、10年やって、それをそんなに意識をしなくてもいい権利を得たというか、そういうちょっと価値観はある。」と語り、今年、11年連続を達成できなくて、「まあでも去年やっといてよかったよね。本当にそう。これやっぱり9だとしんどいですよ。10の、2けたに乗せたのは、やっぱり良かったなと思うね。去年じゃなくて本当に良かった、とは思うね。」と、本人はサバサバした表情で語ったと言われるところから、大リーグ新記録でもあった10年という区切りに達成感があったことは間違いありません。今季を振り返って、「なぜか晴れやかですね。実際に苦しい時期が2カ月くらいあったが、多分200(安打)を続けることに対して区切りがついた。そこではないですかね。ようやく続けることに追われることがなくなったので、ちょっとホッとしている」とも。
 そして、あらためて感じた野球の難しさは?と問われて、「野球の難しさというよりも人との付き合い方が難しいですかね、それはあらためて感じましたね。」、「人って難しいな、っていう、あのー、永遠のテーマなんですけどねえ、すごくいやな生きもの部分もたくさん見るし、なんかこう、人って難しいな、って思いますね。」と答えているのが印象的でした。これを見て、大リーグ最多安打を達成した2004年のシーズン後のインタビューで、今後の目標を聞かれて、「野球がうまくなりたいんですよね、まだ。そういう実感が持てたら嬉しいですね。それは数字に表れづらいところですけど、これはもう僕だけの楽しみと言うか、僕が得る感覚ですから。ただそうやって前に進む気持ちがあるんであれば、楽しみはいくらでもありますから、ベストに少しでも近づきたいですね。」と語っていたのを思い出しました。また、ある時、スランプの印象を聞かれて、「自分の力以上のものが働いている。打てるはずのないのに打ててしまう」ことだと言い、「ヒットが出ているからと言って状態が良いというわけでもないし、ヒットが出ていないから悪いというわけでもない」、ヒットは飽くまで結果であって、「結果が出ていないことを僕はスランプとは言わない」、「僕の中のスランプの定義というのは、感覚を掴んでいないこと」と語っていたのを思い出しました。イチローと言えども、もしかしたら、世間の評価とか、(200安打には拘りがあったようですが)本来は結果としてついてくる記録を追うことへの拘りのようなものと、戦っていたのかも知れないと思う所以です。
 しかし、イチローは飽くまでイチローです。現在の大リーグは「投高打低」の傾向にあって、150キロ前後の球速で打者の手元で変化する「ムービング・ファーストボール」が威力を発揮していると言われ、イチローは多くは語りませんが、以前より速球に対して体が突っ込んで打ち損じる姿を見ると、このボールへの対策を考えていたのではないかと見る向きもあります(毎日新聞)。思うようにいかない、コントロールできないことがあったのか?と聞かれて、「今年はいろいろできる年だったので、ま、去年一応10年やって、できなくてもいいという年ではないですけど、もちろん、一応、区切りのところまではきたっていうので、いろいろできた年だった、実際やったし。」と述べていて、来年、また一皮むけた新しいイチローが見られるかもしれないという期待を抱かせます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする