TPP交渉への参加の是非を巡る議論が盛んです。TPP参加を巡って、国会前でデモするなら分かりますが、その前段階の交渉への参加だというのに、とりわけ民主党内で、まるで国論を二分するかのような騒ぎになっているのは、ひとえに原発の賛否に似て、立場の議論にとどまるからに他なりません。
勿論、立場の議論自体は否定しません。農業に従事する方は生活を守りたいと思うのは当然のことでしょう(しかし、一方で、高関税を維持して高い農産物価格に支えられた零細農家を守り続ける農業政策は、そう長くは続かないだろうという、時代の変化に備える必要はあります)。TPP論議は農業だけではありませんが、多かれ少なかれ同じ問題を抱えています。問題は、立場の議論はさておき、省益を守らんとする官僚、票田を守らんとする政治家しかいないのではないかと思わざるを得ないような、国益の視点が欠落した議論の貧しさにあります。政治家の間の議論なのに、事実に基づくものではなく、恣意的に虚像を作り上げ、日本の農業や医療がさも壊滅しかねないと危機感を煽るばかりの過剰な拒絶反応であったり、FTAを進める韓国を引き合いに、貿易立国として、今後も経済成長を遂げるためには、アジア太平洋地域の活力を取り込むことが肝要といった、過剰な楽観論であったりします。前原さんは、こうした実態がない「おばけ」に怯えることになぞらえて、「TPPおばけ」と呼びましたが、それは楽観論も同じことで、実態がない「おばけ」を喜んでいるヒマはないはずです。
いずれの陣営も、事実に基づく理性的な将来展望をしっかり描いて見せて欲しい。象徴的なのが、取らぬ狸の皮算用です。農水省は、TPPに参加すると農業が壊滅してGDPが1.6%減少すると発表し、経産省はTPPに参加しないと2020年にはGDPが1.5%下がると発表し、内閣府はTPP参加でGDPが最大0.65%上がると発表しました。一体、何をどのように推計したのか、それぞれ前提を詳らかにして、将来展望を正確に共有させて欲しいものです。日経新聞は経団連のお先棒を担いでTPP推進に邁進するばかりではなく、それぞれの議論のどこが問題かをしっかり解説して欲しい。
私には日本の農業がそれほどヤワで簡単に壊滅するとは思えません。有名な話ですが、かつてバナナを自由化しようとした時、青森のリンゴ農家は大反対しましたが、いざ自由化に踏み切ると、品種改良が進んで多種類のリンゴが供給されるようになり、国内消費が盛り上がっただけでなく、台湾や中国に輸出されるまでになりました。アメリカン・チェリーを自由化しようとした時も同じで、山形を中心とする産地は大反対しましたが、その後、山形産サクランボは「高級品」化し、日本のサクランボ生産額は増えたそうです。そもそもアメリカは小麦やトウモロコシ、オーストラリアは畜産、日本は米主体と、TPPに参加する主要国の農業の産品は異なりますし、海外生活の間、日本にはとても入って来ないような質の高いカリフォルニア米にお世話になった我が家でも、日本の米の品質がそれ以上に高いことに異論はありません。果物や野菜も同様です。日本の産業界と同様、日本の農業の潜在的な実力を侮るべきではないのに、減反や零細農家を維持してきたばかりに、却って日本のこれまでの農業政策は日本の「農家」を守るばかりに「農業」を弱めて来たのではないかと思います。
また、日本の国際収支を見ると、もはや所得収支が貿易収支を上回っており、輸出立国ではなく最適地生産に移行しています。未曾有の円高がそれほど日本企業を傷めていないのもそのためだと思われます。TPPの狙いは、日本の輸出競争力を強化しようとするものではなく、アジア諸国の保護貿易を改め、規制を共通化して、EUほどではないにせよ環太平洋地域の経済を統合すること、少なくとも活性化することにあるはずです。そうした中で、日本の経済をどうやって成長させるかということについては、必ずしも楽観的ではあり得ないと思います。
グローバル化はもはや押しとどめられない世界の趨勢です。そんな時代の流れの中で、徳川時代に舞い戻らんとするかのような内向き志向とか、1960年代の古き良き時代を懐かしむかのようなバラ色の高度成長を夢見るのではなく、日本が世界と共存しつつ繁栄するための方策を、冷静に考えるべき時だと思います。
勿論、立場の議論自体は否定しません。農業に従事する方は生活を守りたいと思うのは当然のことでしょう(しかし、一方で、高関税を維持して高い農産物価格に支えられた零細農家を守り続ける農業政策は、そう長くは続かないだろうという、時代の変化に備える必要はあります)。TPP論議は農業だけではありませんが、多かれ少なかれ同じ問題を抱えています。問題は、立場の議論はさておき、省益を守らんとする官僚、票田を守らんとする政治家しかいないのではないかと思わざるを得ないような、国益の視点が欠落した議論の貧しさにあります。政治家の間の議論なのに、事実に基づくものではなく、恣意的に虚像を作り上げ、日本の農業や医療がさも壊滅しかねないと危機感を煽るばかりの過剰な拒絶反応であったり、FTAを進める韓国を引き合いに、貿易立国として、今後も経済成長を遂げるためには、アジア太平洋地域の活力を取り込むことが肝要といった、過剰な楽観論であったりします。前原さんは、こうした実態がない「おばけ」に怯えることになぞらえて、「TPPおばけ」と呼びましたが、それは楽観論も同じことで、実態がない「おばけ」を喜んでいるヒマはないはずです。
いずれの陣営も、事実に基づく理性的な将来展望をしっかり描いて見せて欲しい。象徴的なのが、取らぬ狸の皮算用です。農水省は、TPPに参加すると農業が壊滅してGDPが1.6%減少すると発表し、経産省はTPPに参加しないと2020年にはGDPが1.5%下がると発表し、内閣府はTPP参加でGDPが最大0.65%上がると発表しました。一体、何をどのように推計したのか、それぞれ前提を詳らかにして、将来展望を正確に共有させて欲しいものです。日経新聞は経団連のお先棒を担いでTPP推進に邁進するばかりではなく、それぞれの議論のどこが問題かをしっかり解説して欲しい。
私には日本の農業がそれほどヤワで簡単に壊滅するとは思えません。有名な話ですが、かつてバナナを自由化しようとした時、青森のリンゴ農家は大反対しましたが、いざ自由化に踏み切ると、品種改良が進んで多種類のリンゴが供給されるようになり、国内消費が盛り上がっただけでなく、台湾や中国に輸出されるまでになりました。アメリカン・チェリーを自由化しようとした時も同じで、山形を中心とする産地は大反対しましたが、その後、山形産サクランボは「高級品」化し、日本のサクランボ生産額は増えたそうです。そもそもアメリカは小麦やトウモロコシ、オーストラリアは畜産、日本は米主体と、TPPに参加する主要国の農業の産品は異なりますし、海外生活の間、日本にはとても入って来ないような質の高いカリフォルニア米にお世話になった我が家でも、日本の米の品質がそれ以上に高いことに異論はありません。果物や野菜も同様です。日本の産業界と同様、日本の農業の潜在的な実力を侮るべきではないのに、減反や零細農家を維持してきたばかりに、却って日本のこれまでの農業政策は日本の「農家」を守るばかりに「農業」を弱めて来たのではないかと思います。
また、日本の国際収支を見ると、もはや所得収支が貿易収支を上回っており、輸出立国ではなく最適地生産に移行しています。未曾有の円高がそれほど日本企業を傷めていないのもそのためだと思われます。TPPの狙いは、日本の輸出競争力を強化しようとするものではなく、アジア諸国の保護貿易を改め、規制を共通化して、EUほどではないにせよ環太平洋地域の経済を統合すること、少なくとも活性化することにあるはずです。そうした中で、日本の経済をどうやって成長させるかということについては、必ずしも楽観的ではあり得ないと思います。
グローバル化はもはや押しとどめられない世界の趨勢です。そんな時代の流れの中で、徳川時代に舞い戻らんとするかのような内向き志向とか、1960年代の古き良き時代を懐かしむかのようなバラ色の高度成長を夢見るのではなく、日本が世界と共存しつつ繁栄するための方策を、冷静に考えるべき時だと思います。