北朝鮮の発表によると、4日午前9時(日本時間9時半)、「火星14」型の弾道ミサイルが日本海に向けて発射され、高度2802キロに達し、933キロの距離を飛行したという。北朝鮮の国営メディアは同日午後3時(日本時間同3時半)、「特別重大報道」を発表し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功したと伝えた。さらに、この発射実験で、弾頭を大気圏に再突入させる技術を最終確認したとも報じた。再突入時の高温や振動から弾頭を守る技術は難度が高いが、新たに開発した炭素複合材料を採用し、弾頭部は数千度の高温や激しい振動を受ける再突入後も25~45度の内部温度を安定的に維持し、核弾頭起爆装置も正常に作動したと主張している。
当初、日・米・韓政府はともに北朝鮮の報道を信用せず、中距離弾道ミサイルと判断していたが、その後の分析により、ICBMと認めた。米ジョンズ・ホプキンズ大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」によると、北朝鮮は「ロフテッド軌道」を使っているが、通常角度でより効果的に発射していれば、地球の自転も加わって射程が約6700~8千キロに達し、ハワイやアラスカが射程に入る可能性があるとの見方を示した。他方、米本土のNYやLAなどの大都市を正確に狙う能力を獲得するには、さらに1~2年以上かかると推定している。実際、北朝鮮が米国に核を打ち込む能力を備えるまで、2つの技術的ハードルが残っていると言われる。一つは、北朝鮮が核弾頭をICBM先端に搭載可能なほどに小型化したという兆候は示されていないこと、もう一つは、今回の発射が示すように、北朝鮮のミサイルにはまだ米国中央部に到達するほどの飛距離が出ていないこと、だ。また、宇宙空間で使えるだけの高品質な炭素繊維は、今のところ日本の東レしか開発・製造できていないはずで、北朝鮮が入手しているとはとても思えない。しかし、北朝鮮によるミサイル開発が予想以上に早く進展していることは事実のようだ。
こうした緊迫した状況の下、日本の対応は、悲しいほど貧弱で、他人(=米国)頼みだ。海上保安庁はそもそもミサイルを捕捉するレーダーなどの装備がなく、どこに落下するかといった情報は、内閣官房に頼るしかなく、船舶に注意を呼びかける航行警報を午前9時50分に出したが、その時点ではミサイルの落下海域は不明で、警報内容を「日本周辺海域に着水する可能性がある」から「日本海に着水する可能性」と更新したのは15分後の午前10時5分だったという。ちょうどミサイルが落下するタイミングだ。一方の国土交通省航空局が航空会社に注意を呼び掛ける航空情報(ノータム)を出したのは午前9時52分だった。海・空ともに、偶々今回もことなきを得たが、米国防総省のデービス報道部長に言わせれば、ミサイルが「多数の民間旅客機が利用する空域を通過して宇宙空間を飛行し、商船や漁船が航行する日本の排他的経済水域(EEZ)に落ちた」のは、関係機関などへの事前通告や実験空海域の封鎖が行われておらず、航空機や船舶の航行の安全を脅かす「危険な行為」ということになる。果たして日本で、しかも野党あたりから、このような発言は聞かれるだろうか。相変わらず「もり・かけ」蕎麦問題で安倍政権の足元を掬おうと、腕まくりしているのではないだろうか。もしそうだとすればやはり安保オンチも甚だしいと言わざるを得ない。安保は与野党を問わず日本国の問題であって、協調して対応して貰わなければ困る類いの話のはずである。
さらに、70年代の欧州と似た状況に置かれる可能性があることも指摘されている。米国本土を射程に収めるICBMが実戦配備されれば、米政府が自国への核攻撃で国民の命を犠牲にしてまで同盟国を守るのか疑心暗鬼に陥る「デカップリング(離間)」問題が浮上する。政府内には「北朝鮮の弾道ミサイルの射程が伸びれば伸びるほど、米国による『核の傘』の信用性が脅かされる」(防衛相経験者)との危機感があるという。こうした点についても、果たして野党あたりから、日本政府の対応について追及はあるだろうか。万が一、何かあったときに、与党・自民党を責めればいいといった安易な考えというか、端的に甘えに支配されていないだろうか。
米国では国家安全保障に関する幹部と軍事当局がホワイトハウスに集合し、会議は終日に及んで、独立記念日(7/4)祝賀会の欠席を余儀なくされたらしい。金正恩朝鮮労働党委員長は、米国の独立記念日にICBMが発射されて、米国は「非常に不快だったろう」とした上で、「今後も大小の贈り物をしばしば送ってやろう」などと述べ、ミサイル発射を続ける意思を示したというが、とんでもない話だ。さすがのトランプ大統領も、「この男(金正恩)の人生はほかにやることがないくらい、ヒマなものなのか? 韓国と……日本が現況をこれ以上そう長く我慢できるとは思えないが。おそらく中国が北朝鮮に強い圧力をかけ、このバカ騒ぎに永遠の終止符を打つことになるのだろう」とツイートしたという。金正恩委員長の常識では測り知れない、世間知らずの肥大化した利己心と、習近平国家主席の期待に応える気がない不作為には、トランプ大統領もさぞ頭を抱えていることだろう。
フォーリン・アフェアーズ誌に掲載された論文に、ミャンマーやイラン制裁で威力を発揮した二次制裁やドル取引禁止を北朝鮮にも適用することを示唆するものがあったが、ミャンマーやイランのときには、中国のように隣接してその体制に利害を主張する大国はなかった。今回の難しさはまさにそこにある。トランプ大統領としては、陰で北朝鮮を支える中国こそ、石油輸出の停止などさらなる有効な措置を講じる余地があるキー・プレイヤーとして頼らざるを得なかったわけだが、恐らく中国の立場上、相当の条件が引き出せない限り、トランプ大統領の意に沿うことはないだろう。とりわけ秋に向けて、中国共産党指導部が入れ替わる党大会を控え、習近平国家主席としては外交問題で失点は許されない。トランプ大統領は、4月の米中首脳会談で、習近平国家主席に対し、北朝鮮への圧力を強化し100日以内に成果を出すよう求めたとされており、その期限となる今月上旬、20カ国・地域(G20)首脳会合が開催されるドイツで、米中首脳会談が行われる。どんなやりとりが行われるのか、注目したい。
それにしても東アジアの安全保障環境で、これほどの無力感を味わうことになろうとは、戦後70年は何だったのかと、嘆かざるを得ない(が、くどいようだが、野党の政治家は何も思わないのだろうか)。
当初、日・米・韓政府はともに北朝鮮の報道を信用せず、中距離弾道ミサイルと判断していたが、その後の分析により、ICBMと認めた。米ジョンズ・ホプキンズ大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」によると、北朝鮮は「ロフテッド軌道」を使っているが、通常角度でより効果的に発射していれば、地球の自転も加わって射程が約6700~8千キロに達し、ハワイやアラスカが射程に入る可能性があるとの見方を示した。他方、米本土のNYやLAなどの大都市を正確に狙う能力を獲得するには、さらに1~2年以上かかると推定している。実際、北朝鮮が米国に核を打ち込む能力を備えるまで、2つの技術的ハードルが残っていると言われる。一つは、北朝鮮が核弾頭をICBM先端に搭載可能なほどに小型化したという兆候は示されていないこと、もう一つは、今回の発射が示すように、北朝鮮のミサイルにはまだ米国中央部に到達するほどの飛距離が出ていないこと、だ。また、宇宙空間で使えるだけの高品質な炭素繊維は、今のところ日本の東レしか開発・製造できていないはずで、北朝鮮が入手しているとはとても思えない。しかし、北朝鮮によるミサイル開発が予想以上に早く進展していることは事実のようだ。
こうした緊迫した状況の下、日本の対応は、悲しいほど貧弱で、他人(=米国)頼みだ。海上保安庁はそもそもミサイルを捕捉するレーダーなどの装備がなく、どこに落下するかといった情報は、内閣官房に頼るしかなく、船舶に注意を呼びかける航行警報を午前9時50分に出したが、その時点ではミサイルの落下海域は不明で、警報内容を「日本周辺海域に着水する可能性がある」から「日本海に着水する可能性」と更新したのは15分後の午前10時5分だったという。ちょうどミサイルが落下するタイミングだ。一方の国土交通省航空局が航空会社に注意を呼び掛ける航空情報(ノータム)を出したのは午前9時52分だった。海・空ともに、偶々今回もことなきを得たが、米国防総省のデービス報道部長に言わせれば、ミサイルが「多数の民間旅客機が利用する空域を通過して宇宙空間を飛行し、商船や漁船が航行する日本の排他的経済水域(EEZ)に落ちた」のは、関係機関などへの事前通告や実験空海域の封鎖が行われておらず、航空機や船舶の航行の安全を脅かす「危険な行為」ということになる。果たして日本で、しかも野党あたりから、このような発言は聞かれるだろうか。相変わらず「もり・かけ」蕎麦問題で安倍政権の足元を掬おうと、腕まくりしているのではないだろうか。もしそうだとすればやはり安保オンチも甚だしいと言わざるを得ない。安保は与野党を問わず日本国の問題であって、協調して対応して貰わなければ困る類いの話のはずである。
さらに、70年代の欧州と似た状況に置かれる可能性があることも指摘されている。米国本土を射程に収めるICBMが実戦配備されれば、米政府が自国への核攻撃で国民の命を犠牲にしてまで同盟国を守るのか疑心暗鬼に陥る「デカップリング(離間)」問題が浮上する。政府内には「北朝鮮の弾道ミサイルの射程が伸びれば伸びるほど、米国による『核の傘』の信用性が脅かされる」(防衛相経験者)との危機感があるという。こうした点についても、果たして野党あたりから、日本政府の対応について追及はあるだろうか。万が一、何かあったときに、与党・自民党を責めればいいといった安易な考えというか、端的に甘えに支配されていないだろうか。
米国では国家安全保障に関する幹部と軍事当局がホワイトハウスに集合し、会議は終日に及んで、独立記念日(7/4)祝賀会の欠席を余儀なくされたらしい。金正恩朝鮮労働党委員長は、米国の独立記念日にICBMが発射されて、米国は「非常に不快だったろう」とした上で、「今後も大小の贈り物をしばしば送ってやろう」などと述べ、ミサイル発射を続ける意思を示したというが、とんでもない話だ。さすがのトランプ大統領も、「この男(金正恩)の人生はほかにやることがないくらい、ヒマなものなのか? 韓国と……日本が現況をこれ以上そう長く我慢できるとは思えないが。おそらく中国が北朝鮮に強い圧力をかけ、このバカ騒ぎに永遠の終止符を打つことになるのだろう」とツイートしたという。金正恩委員長の常識では測り知れない、世間知らずの肥大化した利己心と、習近平国家主席の期待に応える気がない不作為には、トランプ大統領もさぞ頭を抱えていることだろう。
フォーリン・アフェアーズ誌に掲載された論文に、ミャンマーやイラン制裁で威力を発揮した二次制裁やドル取引禁止を北朝鮮にも適用することを示唆するものがあったが、ミャンマーやイランのときには、中国のように隣接してその体制に利害を主張する大国はなかった。今回の難しさはまさにそこにある。トランプ大統領としては、陰で北朝鮮を支える中国こそ、石油輸出の停止などさらなる有効な措置を講じる余地があるキー・プレイヤーとして頼らざるを得なかったわけだが、恐らく中国の立場上、相当の条件が引き出せない限り、トランプ大統領の意に沿うことはないだろう。とりわけ秋に向けて、中国共産党指導部が入れ替わる党大会を控え、習近平国家主席としては外交問題で失点は許されない。トランプ大統領は、4月の米中首脳会談で、習近平国家主席に対し、北朝鮮への圧力を強化し100日以内に成果を出すよう求めたとされており、その期限となる今月上旬、20カ国・地域(G20)首脳会合が開催されるドイツで、米中首脳会談が行われる。どんなやりとりが行われるのか、注目したい。
それにしても東アジアの安全保障環境で、これほどの無力感を味わうことになろうとは、戦後70年は何だったのかと、嘆かざるを得ない(が、くどいようだが、野党の政治家は何も思わないのだろうか)。