G20では、経済・貿易問題や金融政策さらに地球温暖化対策に費やされて、北朝鮮への対応は遠景に追いやられた感じだった。致し方ない面もある。なにしろ20ヶ国は先進国から新興国まで、また政体は自由・民主主義を奉じる西欧の国から権威主義の強い中国やロシアまで、さまざまであり、世界的な広がりがあって地政学的な思惑には国によって温度差がある。
北朝鮮を巡っては相変わらず緊迫した情勢が続いており、5日朝、米韓両軍は韓国東海岸で「斬首作戦」の一環のミサイル発射合同訓練を実施したし、8日には、グアムの米空軍基地から飛来したB1爆撃機2機が韓国上空に展開し、弾道ミサイル発射台を標的とした爆撃訓練を行ったことが報じられた。米・戦略爆撃機の朝鮮半島上空での爆撃訓練が公表されるのは今回が初めてで、B1爆撃機はグアムから2時間以内に朝鮮半島に到達することが可能だと好意的に書かれているが、核兵器を搭載できるB52やB2ではなく、ロシアとの新STARTで核兵器搭載能力を取り外されたB1を派遣したのは、北朝鮮を過度に刺激しないよう配慮した可能性があるとの見方もある。
そんな中、先週の日経・朝刊に連載されていた「習近平の支配」というコラムは、それほど目新しいというわけでもなかったが、普段の中国関連記事と違って、核心に迫っていて面白かった。同じく先週の産経・電子版には「抜け穴だらけの対北制裁」というコラムが連載されて、こちらも現状を整理して再認識するという意味で興味深かった。ちょっと長くなるがポイントを抜き出してみる。
<国連>
・国連安保理事は5日、緊急会合を開き、北朝鮮への対応策を協議。安保理はこれまでも制裁決議を積み重ねてきたが、北朝鮮の暴走は止めることができなかった。膨大な商取引を続ける中国や定期便の開通などを通じて影響力拡大を狙うロシアなどが北朝鮮の経済を支えているほか、北朝鮮が国交を結ぶ約160カ国のうち、さまざまな形で北朝鮮に資金を流入させている国が多く、制裁を骨抜きにしている実態がある。
・元安保理北朝鮮制裁委パネル委員の古川勝久氏は「北朝鮮は世界で孤立していない。核・ミサイル開発に関する人、モノ、カネの流れを断つのが目的の既存の制裁を各国がしっかりやっていれば、今のようになっていないからだ」と話す。
・安保理は、北朝鮮が初めて核実験を行った2006年10月以降、核実験や弾道ミサイル発射に対し、計7本の制裁決議を採択。中でも過去5回の核実験に対する5本の制裁決議では、新たな禁輸措置を盛り込むなどし、北朝鮮財政の締め付けを狙ってきたが、その効果はほとんどなかった。
<中国>
・丹東は中朝国境最大の都市で、中朝貿易の物流の7割以上を担う。対岸の北朝鮮・新義州と丹東を結ぶ「中朝友誼橋」を通過するトラックは今でも1日200台を超える日が多い。中国当局の説明によれば、国連安保理決議で禁止されていない物資のみが取引されているはずだ。ただ、そうした物資の中にも大量破壊兵器などに転用可能なものはある。また禁輸品でも「民生目的」ならば許可されるケースもある。
・中国は2月、北朝鮮の主要な外貨獲得源である石炭の輸入をストップしたが、鉄鉱石は「民生目的」として輸入を継続。1~4月の累計では前年同期比約2・4倍に増えている。
・米国のシンクタンク「C4ADS」の報告書によると、2013~16年に北朝鮮と取引をした中国企業は5233社にも上る。いくつかの企業は軍事目的にも転用可能な物資を北朝鮮に輸出したとしている。C4ADSによると、「丹東東源実業有限公司」もその一つ。弾道ミサイルの誘導システムに転用できるナビゲーション装置や、トラックなどを北朝鮮に輸出したとされる。報告書に記載された同社の住所を訪ねると、別の電気関連企業が営業していた。鴨緑江沿いの高層ビルに移ったとされるが、実態は不明。こうした中国企業にも北朝鮮は支えられている。
<ロシア>
・5月に万景峰を就航させた露「インベスト・ストロイ・トレスト」社のバラノフ社長は産経新聞の電話インタビューで「目的はビジネスだ。小麦と米が軍事物資のわけがない」と語り、船は商業目的だと強調した。同氏は「日本の北朝鮮嫌いは驚くほどだ」とも述べ、北への圧力を強める日本にいらだちをあらわにした。
・北朝鮮情勢に詳しい露極東連邦大のルキン准教授は、万景峰の就航は「北朝鮮の孤立に反対するロシアのシグナル」が込められていると指摘する。ロシアは北朝鮮への大量の燃料輸出の実態も報じられているが、同氏は制裁に抵触しない内容であれば「十分にあり得る話だ」と語った。
・プーチン大統領は6月2日、「力の支配を押しつける限り、北朝鮮のような問題が起きる」と述べ、朝鮮半島の緊張は軍事的圧力を強める米国に原因があるとの考えを示した
<韓国>
・文大統領は、公約に掲げた「朝鮮半島非核化平和構想」で、南北が経済統合されれば、「8千万人の市場が形成され、経済の潜在成長率を1%引き上げられる」と強調。「毎年約5万件の雇用が創出され、若者の雇用問題も解決できる」とし、「世界経済地図を変える『朝鮮半島の奇跡』を生み出す」と訴える。
・そのモデルが金、盧両政権の太陽政策だ。金政権時代の1998年から10年間続いた金剛山観光事業で、事業の権利費だけで韓国の財閥から約4億8千万ドル(約540億円)が北政権に渡ったとされる。盧政権時代の2004年から操業が始まった開城工業団地事業では、北朝鮮労働者への賃金名目に16年の事業中断までに約5億6千万ドルが支払われた。中断当時の統一相が「この70%が朝鮮労働党の外貨獲得機関である39号室などに上納され、核・ミサイル開発などに使われた」との懸念を示した。
<東南アジア>
・東南アジアでは、「コリアン」と自称する北朝鮮人が韓国人と混同され、企業や社会に浸透している。
・シンガポールでは2014年、キューバから武器を積み込んだ北朝鮮の船がパナマで拿捕された事件に関与したとして、シンガポールの運送会社や経営者が起訴(後に罰金刑)された。ただ摘発は氷山の一角で、国境管理の甘さなどを突いた密輸の抜け道は多く、各地にある北朝鮮系レストランなどが、秘密会合の場にもなっていると指摘される
<中東>
・エジプトの首都カイロには、北朝鮮の技術者が協力して造られた第4次中東戦争(1973年)の記念館がある。当時の戦いの様子を描いた巨大なキャンバスが観客席を取り囲み、90人分ある観客席の台座が360度、ゆっくりと回る。約20分かけて1周する間に、日本語を含む複数の言葉で解説のナレーションが流れ、観客は座ったままで戦争のあらましが分かるようになっている
・イランの在外反体制組織が6月、同国が北朝鮮の支援を受けて弾道ミサイル開発を続けているとの報告書を発表。地下施設やトンネルは北朝鮮を手本にしており、イラン指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊は北朝鮮の専門家のための居住施設も建設したという。
・北朝鮮が中東、アフリカのイスラム武装勢力に対し、武器を輸出しているとの噂も絶えない。最近では昨年8月、エジプト政府が拿捕した北朝鮮国籍の船長らの船から、北朝鮮製の携行式ロケット弾約3万発と大量の鉄鉱石が押収された。
かなり長くなってしまったが、あらためて眺めてみると、日本は律儀に北朝鮮向け全面禁輸と言って頑張っているが、世の中はずぶずぶであることが分かる。核搭載弾道ミサイルも間近と言われて、アメリカとその基地が存在する日・韓以外に、さほど気に留める国はないということか。カンボジアのアンコールワットには、北朝鮮が協力して造った記念館があり、10年間の権利を持っているというから、その観光収入もまたちまちまと北朝鮮の懐に入っているのだろう。
それにしても2013~16年に北朝鮮と取引をした中国企業が5千社を超えるとは驚いた。先月末、北朝鮮によるマネーロンダリング(資金洗浄)に関与したとして中国・丹東銀行などが、米金融機関との一切の取引を禁止する所謂“二次制裁”対象となったことが初めて発表されたが、僅か2社と2個人だった。既に金正男氏暗殺で(貧者の兵器と言われる)化学兵器と(軍傘下で要人暗殺、破壊工作、世論操作、情報収集、果ては密輸などの外貨獲得まで行っていると言われる)朝鮮人民軍偵察総局の存在感を知らしめていたが、戦闘機や爆撃機は1機あたり100~150億円もして(韓国に対抗するつもりなら)100~200の単位でもつ必要があるのに対し、ミサイルの場合は1機せいぜい1~数億円と安上がりで、貧者にも戦いようがあるのである。そしてそれを止める術は今のところない。
北朝鮮を巡っては相変わらず緊迫した情勢が続いており、5日朝、米韓両軍は韓国東海岸で「斬首作戦」の一環のミサイル発射合同訓練を実施したし、8日には、グアムの米空軍基地から飛来したB1爆撃機2機が韓国上空に展開し、弾道ミサイル発射台を標的とした爆撃訓練を行ったことが報じられた。米・戦略爆撃機の朝鮮半島上空での爆撃訓練が公表されるのは今回が初めてで、B1爆撃機はグアムから2時間以内に朝鮮半島に到達することが可能だと好意的に書かれているが、核兵器を搭載できるB52やB2ではなく、ロシアとの新STARTで核兵器搭載能力を取り外されたB1を派遣したのは、北朝鮮を過度に刺激しないよう配慮した可能性があるとの見方もある。
そんな中、先週の日経・朝刊に連載されていた「習近平の支配」というコラムは、それほど目新しいというわけでもなかったが、普段の中国関連記事と違って、核心に迫っていて面白かった。同じく先週の産経・電子版には「抜け穴だらけの対北制裁」というコラムが連載されて、こちらも現状を整理して再認識するという意味で興味深かった。ちょっと長くなるがポイントを抜き出してみる。
<国連>
・国連安保理事は5日、緊急会合を開き、北朝鮮への対応策を協議。安保理はこれまでも制裁決議を積み重ねてきたが、北朝鮮の暴走は止めることができなかった。膨大な商取引を続ける中国や定期便の開通などを通じて影響力拡大を狙うロシアなどが北朝鮮の経済を支えているほか、北朝鮮が国交を結ぶ約160カ国のうち、さまざまな形で北朝鮮に資金を流入させている国が多く、制裁を骨抜きにしている実態がある。
・元安保理北朝鮮制裁委パネル委員の古川勝久氏は「北朝鮮は世界で孤立していない。核・ミサイル開発に関する人、モノ、カネの流れを断つのが目的の既存の制裁を各国がしっかりやっていれば、今のようになっていないからだ」と話す。
・安保理は、北朝鮮が初めて核実験を行った2006年10月以降、核実験や弾道ミサイル発射に対し、計7本の制裁決議を採択。中でも過去5回の核実験に対する5本の制裁決議では、新たな禁輸措置を盛り込むなどし、北朝鮮財政の締め付けを狙ってきたが、その効果はほとんどなかった。
<中国>
・丹東は中朝国境最大の都市で、中朝貿易の物流の7割以上を担う。対岸の北朝鮮・新義州と丹東を結ぶ「中朝友誼橋」を通過するトラックは今でも1日200台を超える日が多い。中国当局の説明によれば、国連安保理決議で禁止されていない物資のみが取引されているはずだ。ただ、そうした物資の中にも大量破壊兵器などに転用可能なものはある。また禁輸品でも「民生目的」ならば許可されるケースもある。
・中国は2月、北朝鮮の主要な外貨獲得源である石炭の輸入をストップしたが、鉄鉱石は「民生目的」として輸入を継続。1~4月の累計では前年同期比約2・4倍に増えている。
・米国のシンクタンク「C4ADS」の報告書によると、2013~16年に北朝鮮と取引をした中国企業は5233社にも上る。いくつかの企業は軍事目的にも転用可能な物資を北朝鮮に輸出したとしている。C4ADSによると、「丹東東源実業有限公司」もその一つ。弾道ミサイルの誘導システムに転用できるナビゲーション装置や、トラックなどを北朝鮮に輸出したとされる。報告書に記載された同社の住所を訪ねると、別の電気関連企業が営業していた。鴨緑江沿いの高層ビルに移ったとされるが、実態は不明。こうした中国企業にも北朝鮮は支えられている。
<ロシア>
・5月に万景峰を就航させた露「インベスト・ストロイ・トレスト」社のバラノフ社長は産経新聞の電話インタビューで「目的はビジネスだ。小麦と米が軍事物資のわけがない」と語り、船は商業目的だと強調した。同氏は「日本の北朝鮮嫌いは驚くほどだ」とも述べ、北への圧力を強める日本にいらだちをあらわにした。
・北朝鮮情勢に詳しい露極東連邦大のルキン准教授は、万景峰の就航は「北朝鮮の孤立に反対するロシアのシグナル」が込められていると指摘する。ロシアは北朝鮮への大量の燃料輸出の実態も報じられているが、同氏は制裁に抵触しない内容であれば「十分にあり得る話だ」と語った。
・プーチン大統領は6月2日、「力の支配を押しつける限り、北朝鮮のような問題が起きる」と述べ、朝鮮半島の緊張は軍事的圧力を強める米国に原因があるとの考えを示した
<韓国>
・文大統領は、公約に掲げた「朝鮮半島非核化平和構想」で、南北が経済統合されれば、「8千万人の市場が形成され、経済の潜在成長率を1%引き上げられる」と強調。「毎年約5万件の雇用が創出され、若者の雇用問題も解決できる」とし、「世界経済地図を変える『朝鮮半島の奇跡』を生み出す」と訴える。
・そのモデルが金、盧両政権の太陽政策だ。金政権時代の1998年から10年間続いた金剛山観光事業で、事業の権利費だけで韓国の財閥から約4億8千万ドル(約540億円)が北政権に渡ったとされる。盧政権時代の2004年から操業が始まった開城工業団地事業では、北朝鮮労働者への賃金名目に16年の事業中断までに約5億6千万ドルが支払われた。中断当時の統一相が「この70%が朝鮮労働党の外貨獲得機関である39号室などに上納され、核・ミサイル開発などに使われた」との懸念を示した。
<東南アジア>
・東南アジアでは、「コリアン」と自称する北朝鮮人が韓国人と混同され、企業や社会に浸透している。
・シンガポールでは2014年、キューバから武器を積み込んだ北朝鮮の船がパナマで拿捕された事件に関与したとして、シンガポールの運送会社や経営者が起訴(後に罰金刑)された。ただ摘発は氷山の一角で、国境管理の甘さなどを突いた密輸の抜け道は多く、各地にある北朝鮮系レストランなどが、秘密会合の場にもなっていると指摘される
<中東>
・エジプトの首都カイロには、北朝鮮の技術者が協力して造られた第4次中東戦争(1973年)の記念館がある。当時の戦いの様子を描いた巨大なキャンバスが観客席を取り囲み、90人分ある観客席の台座が360度、ゆっくりと回る。約20分かけて1周する間に、日本語を含む複数の言葉で解説のナレーションが流れ、観客は座ったままで戦争のあらましが分かるようになっている
・イランの在外反体制組織が6月、同国が北朝鮮の支援を受けて弾道ミサイル開発を続けているとの報告書を発表。地下施設やトンネルは北朝鮮を手本にしており、イラン指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊は北朝鮮の専門家のための居住施設も建設したという。
・北朝鮮が中東、アフリカのイスラム武装勢力に対し、武器を輸出しているとの噂も絶えない。最近では昨年8月、エジプト政府が拿捕した北朝鮮国籍の船長らの船から、北朝鮮製の携行式ロケット弾約3万発と大量の鉄鉱石が押収された。
かなり長くなってしまったが、あらためて眺めてみると、日本は律儀に北朝鮮向け全面禁輸と言って頑張っているが、世の中はずぶずぶであることが分かる。核搭載弾道ミサイルも間近と言われて、アメリカとその基地が存在する日・韓以外に、さほど気に留める国はないということか。カンボジアのアンコールワットには、北朝鮮が協力して造った記念館があり、10年間の権利を持っているというから、その観光収入もまたちまちまと北朝鮮の懐に入っているのだろう。
それにしても2013~16年に北朝鮮と取引をした中国企業が5千社を超えるとは驚いた。先月末、北朝鮮によるマネーロンダリング(資金洗浄)に関与したとして中国・丹東銀行などが、米金融機関との一切の取引を禁止する所謂“二次制裁”対象となったことが初めて発表されたが、僅か2社と2個人だった。既に金正男氏暗殺で(貧者の兵器と言われる)化学兵器と(軍傘下で要人暗殺、破壊工作、世論操作、情報収集、果ては密輸などの外貨獲得まで行っていると言われる)朝鮮人民軍偵察総局の存在感を知らしめていたが、戦闘機や爆撃機は1機あたり100~150億円もして(韓国に対抗するつもりなら)100~200の単位でもつ必要があるのに対し、ミサイルの場合は1機せいぜい1~数億円と安上がりで、貧者にも戦いようがあるのである。そしてそれを止める術は今のところない。