もはや旧聞に属するが、バイデン大統領が日・韓を歴訪したことに触れておきたい。
日本より先に(と画策した通りに)韓国の地を訪れたことを、韓国メディアはことのほか喜んだそうだ。中身はともかく外観やメンツ(端的に対日優位の体面)に拘る韓国らしい。数日前の日経は、「米韓の技術同盟をさらに発展させる」と言ったバイデン氏の訪韓は、「サムスン電子で始まり、現代自動車で終わった」と、象徴的に表現し(*1)、訪日にあたって日本企業を訪れることはなかったことから、「米国の経済安全保障において、日本の相対的な地位が低下していることの表れと捉えることもできる」と冷たく言い放った(同)。鋭い指摘だ(私たちが訪韓に関心がなかったのもまた事実だが)。
韓国は、新たな経済連携IPEFについても韓国で発表することを画策したらしいが、さすがに叶わなかった。韓国観察者の鈴置高史氏によれば、中国を忖度する韓国は、「米国の裏をかく作戦を練って」いて、「IPEFに創業メンバーとして入ることで発言権を確保し、対中包囲網の色合いを薄める」、言わば獅子身中の虫(NATOの中のトルコのような存在)になることを狙っていると分析され(*2)、完全否定できないところが悩ましい(笑)。そこに韓国の置かれた現実、アメリカにとっての韓国と日本の位置づけの違いが表れているように思う。米・韓は、先ずは経済ベースの実利の関係、日・米は、既にQUADに見られるようにルール・メイキングを通した安全保障を含む価値観を共有できる関係にある。確かにIPEFでは、ASEANの7ヶ国を呼び込むためには、対中包囲網の色合いを消す必要があり、台湾を排除せざるを得なかったと言われる(台湾も残念がった)。その意味でも、台湾に次ぐ半導体産業を擁する韓国の存在は、サプライチェーン強靭化を目指すアメリカにとって不可欠の構成要素だったことだろう。
今回は、アメリカでは同盟関係を軽視したトランプ氏に代わってバイデン氏が大統領職に就いてから、韓国・大統領として、国益を考えていたとは思えないような親中・従北の独善的な外交を進めた文在寅氏が退いて、保守派から尹錫悦氏という、ようやくまともな相手になり得る大統領が登場したタイミングだった。米韓同盟再建を図り(その実、対中傾斜に釘をさし)、日韓関係改善を促す、恰好のタイミングでもあったのだろう。もっとも、米・中の挟間で揺れる韓国の二股外交は地政学的に同情の余地がないわけではないし、韓国における反日は、建国神話として韓国社会に構造的に埋め込まれたもの(韓国憲法前文の通り)で、IPEFにしてもQuadにしても、アメリカは韓国に期待しつつも、そう簡単に気を許すわけには行かないだろう。いい加減、韓国には目を覚まして欲しいものだ。
しかし以上は前座でしかない。昨年来、定例化されたQuad首脳会合が、日本で初めて開催され、オーストラリアの新首相を交えて、4人が顔を合わせて連携強化を確認した。
また、バイデン訪日では、台湾有事が起きた場合に、アメリカが軍事的に関与するかと問われて、「それがわれわれの約束だ」と答えたことが物議を醸した。バイデン氏の舌禍は、昨年8月と10月に続いて三度目で、もはや認知症のせいではなく確信犯だろう。直後にホワイトハウスが「台湾政策に変更はない」と釈明するのも同じく三度目だ。そろそろ「曖昧戦略」を見直すべきとの(リチャード・ハース氏などの)声が高まる中で、「あいまい」の枠内ぎりぎりのところで最大限の対中抑止を図ろうと見せているように思える。
こうして、現下のウクライナ危機に対処しつつ、アメリカがインド太平洋への関与をアピールする良い機会となった。しかし、実質が伴うにはまだまだ時間がかかりそうだ。IPEFは、関税問題がアジェンダから外され、アメリカ市場の開放など、参加するASEAN諸国にとって実利が見えないし、Quadは、もともと非同盟主義のインドを取り込んだのは快挙で、対中牽制を軸に、四ヶ国連携の体裁をぎりぎり保ってはいるが、新興国(というより明確に途上国)の立場で、地政学的にロシアに宥和的なインドという不確定要素を抱えて、とても盤石とは言えない。中国が、太平洋島嶼国10ヶ国の外相との会合で提案した貿易と安全保障に関する声明は、合意には至らなかったものの、Quadの動きを分断するかのような中国の南太平洋での暗躍は油断ならない。インド太平洋は、依然、波高し、というところだろうか。仲介者としての日本のなお一層の働きが期待される。
(*1) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM23CU00T20C22A5000000/
(*2) https://www.dailyshincho.jp/article/2022/05311701/?all=1