ウクライナ戦争はローカルな戦いだが、その帰趨は戦後の国際秩序を左右するかも知れない。欧米は間違いなくそう思っていて、他方で、ロシアはプーチン氏本人の威信が掛かるから、お互いになかなか譲れない。
かつての冷戦は「資本主義」対「共産主義」のイデオロギーの争いだったが、この第二次冷戦(と言ってもよいならば)は「欧米」対「反欧米」の秩序の争い、あるいは(よく言われるように)体制間競争になるのだろう。ウクライナ戦争では、欧米が築いてきた戦後秩序(あるいはモダンからポスト・モダンへの時間の流れ)があからさまな挑戦を受けた。彼らは、これまでブログでさんざんボヤいて来たように、「人権」や「xxの自由」の捉え方から時代認識まで明らかにズレて、文化摩擦と言ってもよいほどで、まともな会話が成り立たないのではないかと心配になる。
そんな難しさの一端を、数日前の日経ビジネスが素描しているのが興味深い(*)。
インターネットについて、孫正義さんは、かつて、蛇口をひねったら水が迸り出る水道管のように、ふんだんにデータが流れるインターネット(の土管)をあまねく整備したい、というようなことを言われていた。それが実現した今、せいぜい水漏れする程度の水道管と違って、インターネットは四六時中、サイバー攻撃の脅威に晒されている。そんな中、欧米のIT企業が撤退したロシアでは、IT機器やシステムへのサポートが受けられず、このままサイバー攻撃対策(セキュリティ・パッチの適用など)が行われなければ、深刻な脅威に晒されると、プーチン氏は焦っているらしい。先ほどの日経ビジネスの記事では、このあたりの事情を「デジタル安全保障」と呼んでいる。
世界と繋がるネットワーク社会にあっては、データが漏洩するだけでなく、電力・通信などの重要インフラが無力化されかねないため、悪意ある国(例えば中国やロシア)製のネットワーク機器を使うことはリスクだと言われて久しいが、逆の立場のロシアで、安全保障観を異にする国のIT技術に依存するリスクが顕在化したのは、実に皮肉なことだ。実のところ、ロシアに対する経済制裁は余り効いていないのではないかと訝る人もいれば、いや、これから益々厳しくなると強がる人もいる。今のところ、ロシアには石油・ガスなどのエネルギー収入がある上、2014年以来、欧米社会に依存しない自給自足の経済に抜かりなく転換して来たため(それがある程度成功したのは、極貧の北朝鮮とまでは行かないまでも、欧米ほど豊かではなく、モノも潤沢ではないお陰と言える)、痛みを感じにくいかも知れないが、経済安全保障に言う「戦略的自立性」に欠けるハイテク領域は、ロシア経済の泣き所であろう。
今や日常生活に不可欠なネットワークだが、水道管のように、せいぜいちょっとばかり(ちょっとどころか、マレーシアの老朽化した水道管は4割とか5割とも言われたものだが)漏洩する程度という安全なインフラにならないものだろうか・・・
(*) https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00132/052600022/