風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

まだ青春真っただ中

2022-06-07 23:32:33 | 時事放談

 この表題は、今月4日未明、世界最高齢となる単独無寄港の太平洋横断を果たされた海洋冒険家の堀江謙一さん(1938~)の言葉だ。子供の頃に見かけた(読んだわけではない)著書『太平洋ひとりぼっち』(初版1962年)のことが浮かんで、今なおご活躍されていることに驚いた。

 今からちょうど60年前、日本人として初めて小型ヨットによる太平洋単独無寄港横断(西宮~サンフランシスコ)に乗り出されたとき、Wikipediaによると、「当時はヨットによる出国が認められなかったため、『密出国』という形」になり、「家族から捜索願が出されたことを受け、大阪海上保安監部は“自殺行為”とみて全国の海上保安本部へ“消息不明船手配”を打電し、不法出国問題より、救助を先決にしていた」そうだ。そして、当時のサンフランシスコ市長が「『コロンブスもパスポートは省略した』と、尊敬の念をもって名誉市民として受け入れ」、「1か月間の米国滞在を認めるというニュースが日本国内に報じられると、日本国内のマスコミ及び国民の論調も手のひらを返すように、堀江の“偉業”を称えるものに変化した」そうだ。「その後、帰国した堀江は密出国について当局の事情聴取を受けたが、結果、起訴猶予となった」という。

 今回は、当時とは逆のコースで太平洋横断を果たされたわけだが、未曾有のコロナ禍で、「出発地点へヨットを運ぶ運賃が『10倍に』」なり、「ワクチン接種や陰性証明がないと出国できない」「いつストップがかかるか、薄氷を踏む思い」だったという(神戸新聞)。

 表題にある「青春」については、サミュエル・ウルマン(1840~1924)が70代で書いた詩「Youth(邦訳:青春の詩)」の冒頭の一節、"Youth is not a time of life; it is a state of mind"(青春とは人生の或る期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ)が有名だ。この詩を気に入ったダグラス・マッカーサーが、「マニラで、のちには東京でも、執務室の壁に詩のコピーを額に入れて掛け、また講演でもたびたび引用した」(Wikipedia)ために、日本でも流布するようになったと言われる。

 しかし所詮「青春」なる言葉は老人(のための)用語だ、とは言い過ぎだろうか。我が身を振り返っても、「青春」まっ盛りの頃に「青春」を意識することなどなかった。せいぜい「人生の或る期間」をゆうに過ぎ去った後に、(年甲斐もなく)青春してるねえなどと茶化す程度だろう。他方で、自分や周囲を眺めると、老いるほどに狭量になり頑固になり依怙地になりがちで、これじゃあ扱い難くてしょうがないから(苦笑)、なるべく精神の柔軟性を失わないように、「心の様相」を保つ努力を続けたいものだと老人は思う。

 件の詩の数行後には次のような一節もある。「年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる。」 ウルマンやマッカーサー元帥はこうして自らを鼓舞されたことだろう。堀江さんや、80歳でエベレスト最高齢登頂者となった三浦雄一郎さんにこそ相応しい「心の様相」だ。足元にも及ばないが、心の片隅にその種火を絶やさずに灯していたいものだと思う。

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