風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

世界スパコン・ランキング

2022-06-09 07:27:32 | ビジネスパーソンとして

 世界のスパコン・ランキングで、アメリカが首位を奪還し、国産スパコン「富岳」が2位に陥落したことが小さな話題になった(*)。このリベラルでポリコレ全盛の優しい時代に、あけすけに首位にこだわりを見せるのは昭和の男の性(サガ)かもしれないが(こういうのも今ではセクハラ発言になるのだろう・・・自分を卑下した独り言に過ぎないのだが)、続けたい。

 トップ10の内、アメリカが5件を占めたのは流石としか言いようがない。日本は「富嶽」が孤軍奮闘しているだけなのがちょっと寂しい。せめてアメリカの半分あるいは欧州並みの存在感、というのが昭和の感覚で、もう1件は欲しかった(トップ500まで拡げると、3分の2近くを米国と中国が占め、日本は34台と随分差があるものの、この2ヶ国に次ぐらしいが)。その欧州勢から、初登場の2件がトップ10に食い込んだのは快挙だ。いつまでもアメリカに頼っていられない(あるいは経済が地盤沈下するばかりなのを食い止めたい)という気概だろうか。中でも、今、話題のフィンランドが3位というのが特筆される。人口は僅か550万人、世界幸福度ランキング首位の国だ。中国は、「富嶽」を越える性能を既に実現しながら、アメリカを刺激するのを避けて発表を控えているとする噂があり、気掛かりだ。欧米中心のお祭り騒ぎから一線を画す、これも一つのデカップリングだろうか(それとも秋の党大会までは波風立てずにおとなしくしているだけだろうか)。

 この手の話には、どうしても「二位じゃダメなんですか」という議論がついて回る(笑)。記事でも、「富岳のような大規模スパコンの開発には1000億円規模の投資が必要」「財政事情の厳しい日本が米中などと世界最速の座を競い続けるのは難しい」「開発だけではなく、活用の発想も欠かせない」とネガティブな表現が続き、東大の鈴木一人教授も、「(計算速度の)ランキングの首位を取ることが経済安保で目指す姿ではない」と指摘される。但し、鈴木教授は、「より重要なのは他国に依存せずにスパコンを活用できる体制を築くことだ」と、経済安全保障を意識したご発言が主旨だった。

 日本にとって、最大の防衛戦略(ひいては国のあらまほしきカタチ)は、国の規模が多少縮んでも、科学技術立国を措いて他にはないと、私はかねがね信じて来た。小学生の頃、資源小国の貿易立国だと教わって、だから全方位外交(=八方美人)は正しい戦略だと久しく信じて来た。xxx立国など、昭和のノスタルジーでしかないかも知れない。しかし、ガチガチにハリネズミのように防衛装備して周辺国を刺激するよりも、科学技術という、生々しい防衛の最前線から一歩引いたところで強かに武装する方が、戦後に謙虚に出直した日本人には受け入れやすいだろうし、実際に平和主義の日本によく似合う。冷戦時代のイメージで言えば、原爆は敢えて持たないけれども、いつでも作れるぞ、という潜在力だ。最大の同盟国・アメリカは、そんな日本を中国(やロシア)側に追いやるわけには行かないから、日本をしっかり守ってくれるだろう・・・などとムシのよいことを考える(笑)。

 ビジネス界で、強迫観念のように「成果主義」がもてはやされ、つい目に見える結果ばかりに関心が向きがちだが、科学技術立国という文脈で言うと、成果もさることながら、科学と技術の両面で切磋琢磨しながら、その頂点を当たり前のように目指す雰囲気を醸成することが重要だと思う。世界スパコン・ランキング首位ではしゃぐのはその一例だ。そうして、多くの若者が当たり前のように理科系の学部に進学し(だからと言って文科系を軽視するつもりはないが)、最先端のアカデミアやビジネス界で研究・開発に身を投じ、当たり前のように成果を出し、それを見た若者が「自分も」と当たり前のように後を追う、好循環のエコシステムを生むことを期待したい。科学技術基盤は、国力(ハードパワー)の基礎としての経済力を下支えするとともに、防衛装備技術が今やAIや量子などますますデュアル・ユース化する(むしろ民から軍への流れが強まっている)時代に、もう一つの国力(ハードパワー)の軍事力、その防衛装備基盤をも結果的に強くすることに繋がる。経済安全保障戦略では、「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」という言葉で抽象化された。

 ところが、平成の30年の間に、そんな雰囲気は当たり前ではなくなってしまった。少子高齢化で財政的に厳しいし、日本学術会議を中心とするアカデミアが軍事研究を忌避し続けるマインドセットは旧態依然のままだ。ところが、パンデミックとウクライナ戦争で食糧難とエネルギー危機が叫ばれる今であれば、「資源の乏しい」というのがかつて日本の枕詞だったことは、実感として思い出されるだろう。そんな日本の最大の資源は人材(人財)だということを思い出すべきだ・・・と思っていたら、岸田政権の「骨太の方針」では人への投資を強化するという。もはや久しく議論すらされなくなったような長年の課題だ。支持率だけは高い岸田政権だが、手遅れにならない内に、是非、実行力を見せて欲しいものだと思う。

(*) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC283LV0Y2A520C2000000/

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