風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

安倍元首相 凶弾に倒れる

2022-07-10 10:29:28 | 時事放談

 安倍晋三元首相が、一昨日、近鉄・大和西大寺駅前で街頭演説中に銃弾を受けて絶命された。享年67。信じられないほどあっけない、唐突な出来事だった。

 その日の昼食時、会社の食堂にあるテレビ前の席がやたら混んでいたのは、私がいつもよりちょっと出遅れたせいではなく、皆、テレビを食い入るように見つめていたせいだった。

 ロシア・プーチン氏のウクライナでの無差別殺戮がとても21世紀的ではなく、19世紀的あるいは20世紀初頭的な野蛮さで、やり場のない怒りを募らせたように、安倍さんの殺害も、凡そ21世紀的ではない、戦前の政治家暗殺かテロを思わせて、やり場のない怒りに震えた。実際に、戦前を連想させて社会不安を煽る報道もあった(小沢一郎氏に至っては、自民党の長期政権のせいにしたのは、論外)。しかし、どうやら容疑者には政治的な動機が乏しいようで、テロや暗殺と呼ぶほどのものではなさそうだ。背後に組織(さらには外国勢力)の気配も感じられない。強いて言えば、一個の孤立した狂気に過ぎなくて、それだけに却って安倍さんという稀有な政治家を失う無念さが否応なしに増してしまう。

 日本の政治を褒めることは滅多にない私だが、職業政治家ばかりの(との意味するところは政局や選挙のことが頭の中の8割方を占める)世の中で、安倍さんには、二世(三世)政治家であっても、否、むしろそれ故にと言った方が適切かも知れない、選挙基盤が盤石だったことに助けられて、政治家の本懐とも言うべき「意志」を貫く姿勢が感じられて、好ましく思って来た。集団的自衛権が公明党に妥協して中途半端な限定行使になったのも、改憲が公明党に妥協して加憲などと中途半端なものになっているのも、また度重なる韓国の非道の上に慰安婦合意をまとめたのも、不満で物足りないところではあるが、安倍さんという保守政治家だからこそ、リベラル左派のみならず保守派の不満をも抑えて成し得たものだった。いずれも論争を惹き起こす難しいテーマで、避けたがる政治家が多いはずだ。

 そして、保守色が濃いだけに、毀誉褒貶も激しかった。一国の首相たる安倍さんがそこまで関わるものかと疑われるような些事に至るまで、野党とリベラル左派メディアの追及はねちっこく、結果としてグレー(アヤシイ)のままで残るという印象操作が公然と行われ、アベガーなる現象を惹き起こした。私は常日頃、ホリエモンの言動に賛同することは少ないが、此度の彼の(いつもより慎重な)呟きには賛成しないわけにはいかない。

「今回の件、全貌はつかめておりませんけど、殺意があって安倍さんを殺そうとしたと犯人は言っているということで、僕はSNSの影響とかで安倍さんが悪者である、正義の鉄槌を下さなければいけないみたいな考えなんじゃないのかなと考えるとですね、やはり安倍さんを悪者扱いしているようなSNS、マスコミの言動をあおってる人達、いわゆるアベガーという人たち、僕はその人達の影響が大きかったんじゃないかと断定はできないけれど、私はそういう風に予測しております」「SNSの影響力が今、ものすごく強くなっていること。これが、社会に与える影響。本当に昭和初期の高橋是清さんが暗殺されましたけどもそれ以来の首相経験者の銃撃ということで非常に由々しき事態だし、雰囲気悪くなってくると思うんですけど、これもSNSの作り出した闇なのかなと私は考えております」(*)

 海外の報道には、まるで安倍さんが社会の分断をもたらしたかのような解説もあったが、恐らくそれは国内リベラル左派メディアか左派学者の言い分を引用したものだろう。誰が、と言うのであれば、罵詈雑言を浴びせたリベラル左派の方であろうし、より建設的に言うならば、SNS社会が生み出すこうした「状況」をこそ憂うべきだろう。

 歴代最長政権を以てしてもなし得なかった課題を残したまま先立たれるのは、さぞ無念なことだろう。私は今も信じられないでいるのだが、その大き過ぎるほどの喪失感にこれから苛まれ続けることだろう。それは、安倍さんという政治家に期待し、頼り過ぎていたことを嫌と言うほど思い知らされることでもある。残された私たちの責任は重い。

 心の整理はつかないままながら、心よりご冥福をお祈り致します。

(*) https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/07/08/kiji/20220708s00041000547000c.html

 

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