風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

原発と放射線を巡る問題(1)

2011-07-15 02:44:41 | 時事放談
 原発問題は分かりにくい。私はこの四ケ月間、敢えてこのテーマでの論評を避けて来ました。一つには日本で原子力の問題が、科学的な議論以前に、数少ないイデオロギー論争として語られるという、困った事情があるからです。冷戦構造を引きずる東アジアの一つの象徴のように、日本では、今なお今回の原発問題で原水爆禁止運動や反核平和運動を連想する人がいて、ほら見たことかと、鬼の首を取ったようにはしゃぎ出す社民党・福島某のような人物もいます。もう少し冷静に分析できる人にとっては、例えば放射線被害について、いまだに多くの科学的論争があることが、分かりにくさを助長します。言ってみれば、いろいろな学者や専門家を気取る評論家がテレビや雑誌で好き勝手に話し、お説ごもっともに聞こえるわりに、安全か否かという庶民レベルの関心については、どうも定説がなさそうだ、ということです。端的に100ミリシーベルト以下の低線量被曝を巡って、発がんなどのリスクを示す科学的なデータが乏しく、専門家の間で意見が分かれます。
 そのため、日本学術会議は、先日、「放射線を正しく恐れる」をテーマに、低線量の放射線被曝による健康への影響や国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告などの国際基準について緊急講演会を行いました。同会議・会長代行の唐木・東大名誉教授によると、まさに「放射線に対し、正しく恐れるのではなく、恐れすぎという風潮がかなりある。放射線のリスクはどの程度のものなのか、理解していただく必要がある」というわけです。いくつか紹介します(産経新聞より)。
 佐々木・日本アイソトープ協会常務理事(専門は放射線医学、核医学)は、ICRPの07年勧告を紹介し、最適化の線量基準として(1)年間1ミリシーベルト以下、(2)同1~20ミリシーベルト、(3)同20~100ミリシーベルト、の3つの枠が示される内、今回のような事故時では年間20~100ミリシーベルトで対応するよう勧められているため、政府は年間累積放射線量が20ミリシーベルトを超える恐れのある地域を計画的避難区域と定めたと解説します。
 甲斐・大分県立看護科学大教授/ICRP委員(専門は放射線保健・防護、放射線リスク解析)は、放射線の影響の中でも、低い放射線量を浴びた場合の発がんリスクについて考える場合、重要なのは被曝したときの年齢であるのは、発がんには長い時間がかかり、生活習慣などいろいろな要因で引き起こされるからだそうで、そこまではよく分かります。そして、被曝年齢が10歳だと、成人に比べて2~3倍のリスクがあると言明され、年齢に加えて重要なのが浴びた放射線量で、広島、長崎の原爆データによると、横軸を線量、縦軸を発がんリスクとしてグラフ化すると、右肩上がりの直線型になり、線量が高くなれば、発がんリスクは比例して高くなる(但し低線量である100ミリシーベルト以下では、統計的に影響が出たという証拠がないため、発がんリスクの判断は難しい)というのが世界的な共通認識で、低線量被曝については、いろいろ理論がありますが、科学的データが十分とはいえず、結局、「何ミリシーベルトまで浴びていい」というのではなく、できるだけ線量は少なくすることが重要だというわけです。
 柴田・日本原子力研究開発機構客員研究員/東大名誉教授/総合研究大学院大名誉教授(専門は原子核物理、放射線計測、放射線防護)によると、放射線を浴びてガンになる確率は、主に広島、長崎の原爆被爆者のデータでは、1千ミリシーベルト浴びると5・5%上がると言われ、政府が定める計画的避難区域である年間累積放射線量が20ミリシーベルトに達する地域に50年間住み続けた場合、被曝線量は1千ミリシーベルトに達し、がんのリスクは1年あたり0・11%の増加となる、と言われてもいまひとつピンときませんが、喫煙のリスクと比べると分かりやすくて、却って、ほんまかいなと眉に唾をつけたくなります。すなわち、非喫煙者のガンの危険度を1とすると、喫煙者の危険度は1・6倍に上がり、平均的な喫煙のリスクを放射線に換算すると、年間32ミリシーベルトとなって、政府が定める計画的避難区域の年間20ミリシーベルトの地域に住んだとしても、リスクは喫煙より小さいことになり、結局、非常時の状況をリスクで理解し受容できるかどうかは、個人の判断に任せていいのではないか、子供が心配なので避難したいという人、家畜がいるので残りたいという人、両方の判断があっていいと思うと言われ、学者特有の誠実さと裏腹に独りよがりのニオイを感じてしまいます。
 山岡・岡山大大学院教授(専門は放射線健康科学、生体応答解析学)によると、過剰なストレスが健康を害する一方で、適量であれば好影響を与えるという「ホルミシス効果」があり、適度な運動やインフルエンザ・ワクチンなどの予防接種もこの効果を用いて免疫力を向上させている、というところまでは感覚的によく理解できますが、国連科学委員会が定める低線量(200ミリシーベルト未満)の放射線被曝についてもこの効果があると言え、科学的に実証されつつあると言われると、俄かに信じ難く、結局、これらは研究段階にあり、放射線防護の観点では、発がんリスクをできるだけ抑えるため、「放射線被曝は少ないほどよい」とするICRP勧告を守るべき、と結んでおられて、思わず唖然としてしまいます。
 結局、科学はリスクを取れない、これらが科学の叡智の限界だと分かって、科学的知見に頼ることの浅はかさと、結局、リスクは自ら判断するしかないという、ごく当たり前の定理に思い至ります。
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