風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

リーダーシップ(後)

2013-01-06 11:57:26 | ビジネスパーソンとして
 前回は、時に「頑張り過ぎる」ことは、必ずしも良いことばかりではないであろうことを、さわりとして述べました。これは現場力とリーダーシップのバランスの問題として捉えているのですが、より正確に言うと、現場力はカイゼンを重ねて磨かれていくもの、その現場力を活かしつつ、リーダーシップは環境変化を察知し適切に方向を変え、将来に向かって繁栄を目指すもの、とするならば、リーダーシップは、頑張り過ぎる現場に埋没してはならない、悪者になろうとも敢えて変化を主導しなくてはならないこともある、と言えます。当たり前のことですね。ところがこの当たり前のことがなかなかスムーズに行かない。日本は伝統的に現場力が強いためにリーダーシップがなくてもよしとするのか(はたまた村長のように調整型でよしとするのか)、リーダーシップが弱いために現場力に頼らざるを得ないのか(そうこうしている内に現場力がますます磨かれるのか)、欧米とは明らかに違うダイナミズムをもっています。
 産業界(私は製造業に属していますので、その界隈の話になりますが)に関して言うならば、日本はかつて戦後の復興から高度成長を経て1980年代に至るまで現場力によって世界に躍進しましたが、それは生産・品質技術という現場力の一つを磨いたからでした。そして今もなお現場力によってよく持ちこたえていると思います。ところが、その間、環境は大きく変わりました。政治的な東西冷戦の終結とともに、かつては東側として対峙していた中国や東欧が西側の市場経済に組み込まれ、経済活動面でグローバリゼーションが進行するとともに、技術的には米国・国防総省は独占していたネットワークが全世界に開放され、IT業界が勃興してかつてない革新が続き、そんなグローバルな跛行性をもった成長を捉えて、全世界を対象にした金融技術が高度に発達しました。そんな中で、日本においてもYahooやソフトバンクや楽天といった環境変化を捉えた新興企業が躍進しつつも、日本経済の屋台骨は、相変わらず1980年代以前の大企業が頑張っている状況と言えます。
 高度成長が時代の波を捉えた幸運な時期だったとするならば、失われた20年は時代の波に乗れないもどかしさに悩む日々と感じます。その間、大企業と言えども盤石ではなく、優秀な人間を囲い込んだまま、かつては聖域だった給与を下げてでも、時には構造改革を断行してでも、頑張り続けています。日本人はここでも「頑張り過ぎ」ているのではないか。もう少し緩めて、変化を志向し、あるいは同じ事業ドメインに留まるにしても、大幅に戦線縮小してもよいのではないか。勿論、痛みを伴います。だからこそ頑張っている。
 昨年、ソニー、パナソニック、シャープといった家電メーカーの凋落ぶりが話題になりました。短期的には超円高をはじめとして、韓国などに比べて日本の投資環境の悪さ(所謂六重苦)が論われ、それはその通りだと思いますし、競争相手として国家資本主義を背景とする中国企業が台頭し、太陽光パネルに見られるように在庫・生産調整などといった市場原理にとらわれない増産に次ぐ増産で価格破壊を招くなど、これまでとは違った意味で市場が攪乱されたりもしましたし、あるいはこうした新興国の従来にないスピード感と技術の接近により、日本企業の大型の投資判断が墓穴を掘ったと批判されたりもしました。そしてその背後には、優秀な技術が盗まれるだけでなく、(敢えて頑張り過ぎるばかりにと言いたいのですが)停滞する企業の先行きに不安を覚える技術者が引き抜かれたり自ら進んで外に出るなどして、製造業としての企業基盤が劣化しつつある現実があります。JALは復活したとされていますが、そのプロセスで、それまで囲い込まれていたパイロットが市場に流出し、LCC等の他の航空会社が救われたと言われます。つまり長期的に見れば、同じ持ち場に留まって頑張り過ぎるばかりに、優秀な人材や金を縛り付け、有望な新興市場も育たないまま、共倒れに終わり、結果、全体として緩やかな衰退に向かっているのではないかと感じざるを得ません。雇用ひいては社会の流動化は、常に日本の課題とされて来ましたが、これはひとり企業だけの問題ではなく、広く、企業を含む日本人全体の心の問題として(つまり企業の中にいてもどうにもならない部分も抱えるからこそ)敢えて言いたいと思います。
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