北朝鮮で最近、“親政クーデター”とも言うべき動きがあったと、この3月まで早稲田大学教授だった重村智計氏があるコラムに書かれていたのが印象に残る。6月29日に行われた最高人民会議で憲法を改正し、「国防委員会」を廃止する代わりに「国務委員会」を設置したのを、北朝鮮の報道機関は「国防委員会を国務委員会に改める」と淡々と報じ、「金正恩国防委員会第一委員長が国務委員会委員長に就任した」とだけ伝えたらしいのだが、重村氏によれば、軍部が主導するこれまでの政治から、金正恩第一書記をトップに戴く朝鮮労働党が指導する政治へ変わる、歴史的な体制転換だと言う。これに伴い、軍の長老であった呉克烈氏と李勇武氏の二人の国防副委員長が更迭され、新たに国務委員会の副委員長に、崔竜海氏と朴奉珠氏の党政治局常務委員が任命されたのは、明らかな軍人排除で、党人材の登用であるとも言う。
最近の北朝鮮では、金正恩第一書記の父親の金正日総書記が進めて来た「先軍政治」の旗を降ろし、おやっと思っていたら、5月に、36年ぶりに開催された党大会でも、核開発と経済再生を同時に進める「並進路線」の継続など既存の政策の再確認を淡々と行っており、果たして今回の最高人民会議での動きが「党優先」「文民優先」の体制に移行する“親政クーデター”と呼ぶほどのものなのかどうか、実際のところよく分からない。そもそも中国ですら党のための人民解放軍がどれほどの力を持つのか、時折り米軍や日本の自衛隊を挑発するのは軍の暴発(つまり党の統制が取れていない)なのかどうかで議論が分かれるくらいで、いわんや北朝鮮をや、といったところである。
それはともかく、重村氏によれば、その背景に、経済制裁による資金不足があると言う。
同コラムには興味深い数字が出ている。韓国の金融機関の推計では、北朝鮮の国内総生産はわずか3兆円(これでも大き過ぎるとの分析もあるようで、実際には2兆円以下とも指摘されるらしい)、国家予算は日本円にして7000億円程度と推測されているという。日本はそれぞれざっくり500兆円と100兆円だから、日本の100~250分の1の規模といったところだ。韓国政府が最近実施した調査では、国連が経済制裁を始めて以来、北朝鮮の総貿易高の80%以上を占める中国への輸出は40%減、海外への武器輸出も80%減となっているらしい。さらに、毎年100億円もの外貨収入を上げていた開城の工業団地も、韓国政府によって閉鎖されたのは痛手だと言う。
しかし・・・DailyNKという日本で発行される北朝鮮情報誌によると、北朝鮮はアフリカを舞台に外貨獲得ビジネスを活発に展開しており、国連のダルスマン北朝鮮人権特別報告者は、北朝鮮が東南アジア、アフリカ、中東などに実に5万人以上の労働者を派遣し、年間で最大23億ドル(!)の外貨を得ていると言う。今の円高の実勢レートでも2300億円(!)に上る金額である。数ヶ月前、ある民放で北朝鮮とナミビア(大西洋に面したアフリカ南西部にある、人口230万人の小国)との友好関係が報じられていたので、Wikipediaで確認したところ、ナミビアの首都ウィントフックのナミビア大統領府の建設を北朝鮮の万寿台海外開発会社が受注しているらしい。北朝鮮はナミビアの独立直後から軍事援助などを行い、緊密な関係を築いたというのだが、驚くべき事実だ。1年ほど前のDailyNKは、北朝鮮が赤道ギニアから大統領の警護システムなど30億ドル(!)規模のIT事業を受注したと報じている。果たしてミサイルはぶっ飛ばせるしサイバー攻撃も出来る(しかしそれ以外の産業基盤が見当たらない)北朝鮮に最新のITシステム構築の実力があるのか、俄かには信じ難いニュースだが、その真偽はともかく、どうやら開城の工業団地の100億円は屁みたいなレベルであるのは確かなようだ。拉致問題を抱え、国連以上に独自制裁を課し、全面禁輸を続ける日本としては、なんともやり切れない話である。
実際に、国連・安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会(対北朝鮮制裁決議の履行状況を監視している専門家パネル)が纏めて2月に公表した、北朝鮮の制裁逃れに関する年次報告書にも、北朝鮮による中東・アフリカへの武器輸出の実態などが明記され、アフリカなど一部の加盟国に制裁逃れの報告を求めているが応じていない国もあって、「現在の制裁の効果に深刻な疑問が生じている」と指摘されている。
さらにナミビア大統領府の建設を受注した北朝鮮の万寿台海外開発会社は、2002年から2005年にかけてナミビアに弾薬工場を建設し、同社は北朝鮮の武器取引を担う朝鮮鉱業貿易開発会社(KOMID)の関係先と見られ、このKOMIDは2009年から国連の制裁対象に指定されているとの記述もある。これに対してナミビア政府は、かねてより、弾薬工場建設は国連制裁発効以前に行われた事業であり、生産された弾薬はすべてナミビア国内で使用されることから、何ら問題はないと説明してきたのだが、とうとう6月30日、北朝鮮のこれら企業との取引をやめると発表したらしい。もう少し昔に遡ると、ボツワナ(ナミビアに隣接する人口200万人の小国)は昨年2月、北朝鮮の人権に関する国連調査委員会(COI)が、北朝鮮の体制による反人道的行為を告発する報告書を発表した後、北朝鮮との断交を宣言した。
そうは言っても、北朝鮮は、中国やロシアを筆頭に、キューバ、シリア、パキスタンといったあぶなっかしい国々とだけでなく、ニュージーランド、ブルガリア、ポーランド、(マカオ繋がりの)ポルトガル、マレーシア(北朝鮮が査証なしで入国を認めるのはマレーシアのみ)といった国々とも友好関係にあるらしい。またアフリカでは、ナミビアや赤道ギニアのほか、ジンバブエ(ボツワナの東に隣接)とも軍事交流のため100人を越える北朝鮮軍事顧問団を派遣しているし、第4次中東戦争の際に空軍パイロットの「助っ人」を送ったエジプトは国連制裁に協力的とは言えないようであるし、東アフリカに位置するウガンダも、クーデターや内戦の絶えなかった当時、朝鮮人民軍の顧問団が戦車部隊を訓練して以来、友好的だという。平壌には欧州諸国の中ではポーランド、ドイツ、英国、スウェーデンの大使館がある。イギリスは2000年12月に国交を樹立し、北朝鮮の官僚に英語や人権についての訓練を施すほか、北朝鮮政府に対し国連人権状況特別報告官の訪問を受け入れるよう求めており、また、二国間の北朝鮮における人道プロジェクトを監督するというように、関与して監視する方針のようである。
なかなかどうして、北朝鮮はしたたかに生きているとは言えまいか。
最近の北朝鮮では、金正恩第一書記の父親の金正日総書記が進めて来た「先軍政治」の旗を降ろし、おやっと思っていたら、5月に、36年ぶりに開催された党大会でも、核開発と経済再生を同時に進める「並進路線」の継続など既存の政策の再確認を淡々と行っており、果たして今回の最高人民会議での動きが「党優先」「文民優先」の体制に移行する“親政クーデター”と呼ぶほどのものなのかどうか、実際のところよく分からない。そもそも中国ですら党のための人民解放軍がどれほどの力を持つのか、時折り米軍や日本の自衛隊を挑発するのは軍の暴発(つまり党の統制が取れていない)なのかどうかで議論が分かれるくらいで、いわんや北朝鮮をや、といったところである。
それはともかく、重村氏によれば、その背景に、経済制裁による資金不足があると言う。
同コラムには興味深い数字が出ている。韓国の金融機関の推計では、北朝鮮の国内総生産はわずか3兆円(これでも大き過ぎるとの分析もあるようで、実際には2兆円以下とも指摘されるらしい)、国家予算は日本円にして7000億円程度と推測されているという。日本はそれぞれざっくり500兆円と100兆円だから、日本の100~250分の1の規模といったところだ。韓国政府が最近実施した調査では、国連が経済制裁を始めて以来、北朝鮮の総貿易高の80%以上を占める中国への輸出は40%減、海外への武器輸出も80%減となっているらしい。さらに、毎年100億円もの外貨収入を上げていた開城の工業団地も、韓国政府によって閉鎖されたのは痛手だと言う。
しかし・・・DailyNKという日本で発行される北朝鮮情報誌によると、北朝鮮はアフリカを舞台に外貨獲得ビジネスを活発に展開しており、国連のダルスマン北朝鮮人権特別報告者は、北朝鮮が東南アジア、アフリカ、中東などに実に5万人以上の労働者を派遣し、年間で最大23億ドル(!)の外貨を得ていると言う。今の円高の実勢レートでも2300億円(!)に上る金額である。数ヶ月前、ある民放で北朝鮮とナミビア(大西洋に面したアフリカ南西部にある、人口230万人の小国)との友好関係が報じられていたので、Wikipediaで確認したところ、ナミビアの首都ウィントフックのナミビア大統領府の建設を北朝鮮の万寿台海外開発会社が受注しているらしい。北朝鮮はナミビアの独立直後から軍事援助などを行い、緊密な関係を築いたというのだが、驚くべき事実だ。1年ほど前のDailyNKは、北朝鮮が赤道ギニアから大統領の警護システムなど30億ドル(!)規模のIT事業を受注したと報じている。果たしてミサイルはぶっ飛ばせるしサイバー攻撃も出来る(しかしそれ以外の産業基盤が見当たらない)北朝鮮に最新のITシステム構築の実力があるのか、俄かには信じ難いニュースだが、その真偽はともかく、どうやら開城の工業団地の100億円は屁みたいなレベルであるのは確かなようだ。拉致問題を抱え、国連以上に独自制裁を課し、全面禁輸を続ける日本としては、なんともやり切れない話である。
実際に、国連・安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会(対北朝鮮制裁決議の履行状況を監視している専門家パネル)が纏めて2月に公表した、北朝鮮の制裁逃れに関する年次報告書にも、北朝鮮による中東・アフリカへの武器輸出の実態などが明記され、アフリカなど一部の加盟国に制裁逃れの報告を求めているが応じていない国もあって、「現在の制裁の効果に深刻な疑問が生じている」と指摘されている。
さらにナミビア大統領府の建設を受注した北朝鮮の万寿台海外開発会社は、2002年から2005年にかけてナミビアに弾薬工場を建設し、同社は北朝鮮の武器取引を担う朝鮮鉱業貿易開発会社(KOMID)の関係先と見られ、このKOMIDは2009年から国連の制裁対象に指定されているとの記述もある。これに対してナミビア政府は、かねてより、弾薬工場建設は国連制裁発効以前に行われた事業であり、生産された弾薬はすべてナミビア国内で使用されることから、何ら問題はないと説明してきたのだが、とうとう6月30日、北朝鮮のこれら企業との取引をやめると発表したらしい。もう少し昔に遡ると、ボツワナ(ナミビアに隣接する人口200万人の小国)は昨年2月、北朝鮮の人権に関する国連調査委員会(COI)が、北朝鮮の体制による反人道的行為を告発する報告書を発表した後、北朝鮮との断交を宣言した。
そうは言っても、北朝鮮は、中国やロシアを筆頭に、キューバ、シリア、パキスタンといったあぶなっかしい国々とだけでなく、ニュージーランド、ブルガリア、ポーランド、(マカオ繋がりの)ポルトガル、マレーシア(北朝鮮が査証なしで入国を認めるのはマレーシアのみ)といった国々とも友好関係にあるらしい。またアフリカでは、ナミビアや赤道ギニアのほか、ジンバブエ(ボツワナの東に隣接)とも軍事交流のため100人を越える北朝鮮軍事顧問団を派遣しているし、第4次中東戦争の際に空軍パイロットの「助っ人」を送ったエジプトは国連制裁に協力的とは言えないようであるし、東アフリカに位置するウガンダも、クーデターや内戦の絶えなかった当時、朝鮮人民軍の顧問団が戦車部隊を訓練して以来、友好的だという。平壌には欧州諸国の中ではポーランド、ドイツ、英国、スウェーデンの大使館がある。イギリスは2000年12月に国交を樹立し、北朝鮮の官僚に英語や人権についての訓練を施すほか、北朝鮮政府に対し国連人権状況特別報告官の訪問を受け入れるよう求めており、また、二国間の北朝鮮における人道プロジェクトを監督するというように、関与して監視する方針のようである。
なかなかどうして、北朝鮮はしたたかに生きているとは言えまいか。
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