ダボス会議に出席していたトランプ米大統領は、離脱したTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について、「すべての参加国の利益になる」ことを前提に復帰を検討する考えを表明したらしい。どういう風の吹き回しか、相変わらず予測不能だが(笑)、歓迎されるべき兆候だ。
彼本人こそが地政学上の最大のリスクと言われて久しいトランプ大統領だが、最近の暴露本「FIRE AND FURY」(日本語タイトル「炎と怒り」)によると、とんでもない事実(らしいこと)が判明した。ニューズウィーク日本版1-23号の特集には次の様な記述がある。
(前略)マイケル・ウルフの「炎と怒り」が描き出すトランプは、大統領の仕事に恐ろしく不適任で不安定な人物だ。注意力がひどく散漫で、ろくに字が読めない可能性もある。テレビの有名人だが、人生は何十年も下り坂。精神を病んでいる可能性も少なくない。国家の統治には興味がなく、人生で唯一忠誠を誓った対象――自分自身にひたすら執着する(後略)
(前略)トランプが出馬した本当の目的は当選することではなく、保守系テレビ局を立ち上げる足掛かりにすることだと、多くの評論家が推測していた。ウルフによれば、そうした推測は正しかったようだ。(中略)トランプの究極の目標は、あくまでも世界で最も有名で最もリッチな男になること。世界最強国家の手綱を握ることではなかった。ジャーナリストのエズラ・クラインがこの点をうまく表現している。「トランプは、政策や政権運営やイデオロギーに関心がない。関心があること、それはドナルド・トランプだけだ。あちこちの建物やタブロイド紙に自分の名前を記すことをずっと夢見てきた。そして今、地球上で最も重要な建物と世界中の新聞に彼の名前が記されている」(後略)
件のニューズウィーク誌は言う。「本書は細かい事実の正確性に問題があるとしても、核心部分の記述そのものには十分な信憑性がある」「ホワイトハウスの関係者はほぼ全員、政権内部の雰囲気が驚くほど見事に再現されていると語る」、と。ニューヨークタイムズやCNNほどではないにせよ、トランプ叩きに興じるアメリカのメディアの一つとして、ニューズウィーク誌も、それみたことかと溜飲を下げたに違いない。しかしこのあたりまでは、まあ想定の範囲内だ。
この書を読んだ感想(以下に抜粋)をフォーサイトに寄せた青木冨貴子さんは、トランプ大統領が当選するつもりはなかったのに当選してしまったときの状況に触れていて、実に興味深い。
(前略)はじめに目に留まったのは、大統領選に勝利した2016年11月8日のトランプ陣営の反応だった。トランプ自身がまさか当選すると思っていなかったことは伝えられていたが、負けても6ポイント以下で抑えられれば実質的な勝利だと踏んでいたというのだ。当選しなくても、世界で一番有名な人物になれる。ところが、当日の夜8時すぎに、トランプが本当に勝つかもしれないという予想外の流れが出てくると、長男のドナルド・トランプ・ジュニアは自分の父がまるで幽霊でも見たかのような様子だったと友人に語ったという。「1時間あまりというわずかな間に、状況を面白がっていないこともないスティーブ・バノンの観察によると、『まごついたトランプ』は『何が起こったか信じられないトランプ』に変身し、さらに『恐怖に怯えるトランプ』に変貌した。しかしその後いきなり、『自分は合衆国の大統領にふさわしい、能力を完全に備えた人間なのだと信じるトランプ』に変わったのだ」(中略)妻のメラニアは夫の勝利を予測していたほんのひと握りの人たちの1人だったとある。勝利が決まると、そのメラニアが涙を流したというのは驚きだ。著者は「その涙は喜びの涙ではない」と指摘し、「夫が大統領になることにメラニアはぞっとして、夫から身を守るシェルターのような生活が脅かされることを恐れた」というのである。(後略)
へえ~と唸りたくなるが、まあ、そう言われればそう、やっぱりな・・・と、つい頷いてしまう。
元外交官の宮家邦彦さんは、この書を読み終えて、産経新聞に次の様な冷静なコメントを寄せておられる。
(前略)トランプ氏が大統領の器でないという噂は一昨年の大統領選挙中からあった。当時米国の友人は誇大性・賛美を求める欲求・特権意識が強く、自己を最重視し、業績を誇張し不相応の称賛を求める「NPD(自己愛性パーソナリティー障害)」なる米精神医学用語でトランプ氏の直情・直感的傾向を指摘していた。まさにその通りではないか。また、同書はトランプ氏が「人の話を聞かず、文書を読まず、最後に聞いた話を対外的にしゃべる」と書いたが、その種の経営者・政治家は日本にも大勢いる。トランプ氏だけを不適任と断罪するのは不公平であろう。(後略)
政治家としての品格や資質に疑義がある政治家はいくらでもいる・・・というご指摘には返す言葉がない(苦笑)。トランプ氏は大統領の器ではないし、その備えもなかったことになるが、さすがにまともなメディアは合衆国大統領という地位に敬意を払って(ぶっちゃけた話、ホワイトハウスに出入り禁止にならないように)、そこまで露骨に批判して来なかった、ということなのだろう(逆に言うと、この書の著者は余りまともじゃない、ということになるが)。
ケミストリーが合うと言われる安倍首相とは、この一年で既に10数回も電話会議をしているが、ある信頼できる筋の情報によれば、安倍首相が一方的に話をして、トランプ大統領は頷いているだけ、ということだ。トランプ大統領には話すだけの見識がないのかと疑ったりもするが(情報はちゃんとインプットされているはずなのに)、他方、昨今の北朝鮮情勢や中国の横暴を思えば、今、東アジアからアメリカのプレゼンスがなくなれば大変なことになるのは間違いなく、気紛れトランプを引き留めるために、安倍首相が相当、心を砕いている様子も垣間見えて、日米両首脳の不思議な関係に思いを致した次第である。
彼本人こそが地政学上の最大のリスクと言われて久しいトランプ大統領だが、最近の暴露本「FIRE AND FURY」(日本語タイトル「炎と怒り」)によると、とんでもない事実(らしいこと)が判明した。ニューズウィーク日本版1-23号の特集には次の様な記述がある。
(前略)マイケル・ウルフの「炎と怒り」が描き出すトランプは、大統領の仕事に恐ろしく不適任で不安定な人物だ。注意力がひどく散漫で、ろくに字が読めない可能性もある。テレビの有名人だが、人生は何十年も下り坂。精神を病んでいる可能性も少なくない。国家の統治には興味がなく、人生で唯一忠誠を誓った対象――自分自身にひたすら執着する(後略)
(前略)トランプが出馬した本当の目的は当選することではなく、保守系テレビ局を立ち上げる足掛かりにすることだと、多くの評論家が推測していた。ウルフによれば、そうした推測は正しかったようだ。(中略)トランプの究極の目標は、あくまでも世界で最も有名で最もリッチな男になること。世界最強国家の手綱を握ることではなかった。ジャーナリストのエズラ・クラインがこの点をうまく表現している。「トランプは、政策や政権運営やイデオロギーに関心がない。関心があること、それはドナルド・トランプだけだ。あちこちの建物やタブロイド紙に自分の名前を記すことをずっと夢見てきた。そして今、地球上で最も重要な建物と世界中の新聞に彼の名前が記されている」(後略)
件のニューズウィーク誌は言う。「本書は細かい事実の正確性に問題があるとしても、核心部分の記述そのものには十分な信憑性がある」「ホワイトハウスの関係者はほぼ全員、政権内部の雰囲気が驚くほど見事に再現されていると語る」、と。ニューヨークタイムズやCNNほどではないにせよ、トランプ叩きに興じるアメリカのメディアの一つとして、ニューズウィーク誌も、それみたことかと溜飲を下げたに違いない。しかしこのあたりまでは、まあ想定の範囲内だ。
この書を読んだ感想(以下に抜粋)をフォーサイトに寄せた青木冨貴子さんは、トランプ大統領が当選するつもりはなかったのに当選してしまったときの状況に触れていて、実に興味深い。
(前略)はじめに目に留まったのは、大統領選に勝利した2016年11月8日のトランプ陣営の反応だった。トランプ自身がまさか当選すると思っていなかったことは伝えられていたが、負けても6ポイント以下で抑えられれば実質的な勝利だと踏んでいたというのだ。当選しなくても、世界で一番有名な人物になれる。ところが、当日の夜8時すぎに、トランプが本当に勝つかもしれないという予想外の流れが出てくると、長男のドナルド・トランプ・ジュニアは自分の父がまるで幽霊でも見たかのような様子だったと友人に語ったという。「1時間あまりというわずかな間に、状況を面白がっていないこともないスティーブ・バノンの観察によると、『まごついたトランプ』は『何が起こったか信じられないトランプ』に変身し、さらに『恐怖に怯えるトランプ』に変貌した。しかしその後いきなり、『自分は合衆国の大統領にふさわしい、能力を完全に備えた人間なのだと信じるトランプ』に変わったのだ」(中略)妻のメラニアは夫の勝利を予測していたほんのひと握りの人たちの1人だったとある。勝利が決まると、そのメラニアが涙を流したというのは驚きだ。著者は「その涙は喜びの涙ではない」と指摘し、「夫が大統領になることにメラニアはぞっとして、夫から身を守るシェルターのような生活が脅かされることを恐れた」というのである。(後略)
へえ~と唸りたくなるが、まあ、そう言われればそう、やっぱりな・・・と、つい頷いてしまう。
元外交官の宮家邦彦さんは、この書を読み終えて、産経新聞に次の様な冷静なコメントを寄せておられる。
(前略)トランプ氏が大統領の器でないという噂は一昨年の大統領選挙中からあった。当時米国の友人は誇大性・賛美を求める欲求・特権意識が強く、自己を最重視し、業績を誇張し不相応の称賛を求める「NPD(自己愛性パーソナリティー障害)」なる米精神医学用語でトランプ氏の直情・直感的傾向を指摘していた。まさにその通りではないか。また、同書はトランプ氏が「人の話を聞かず、文書を読まず、最後に聞いた話を対外的にしゃべる」と書いたが、その種の経営者・政治家は日本にも大勢いる。トランプ氏だけを不適任と断罪するのは不公平であろう。(後略)
政治家としての品格や資質に疑義がある政治家はいくらでもいる・・・というご指摘には返す言葉がない(苦笑)。トランプ氏は大統領の器ではないし、その備えもなかったことになるが、さすがにまともなメディアは合衆国大統領という地位に敬意を払って(ぶっちゃけた話、ホワイトハウスに出入り禁止にならないように)、そこまで露骨に批判して来なかった、ということなのだろう(逆に言うと、この書の著者は余りまともじゃない、ということになるが)。
ケミストリーが合うと言われる安倍首相とは、この一年で既に10数回も電話会議をしているが、ある信頼できる筋の情報によれば、安倍首相が一方的に話をして、トランプ大統領は頷いているだけ、ということだ。トランプ大統領には話すだけの見識がないのかと疑ったりもするが(情報はちゃんとインプットされているはずなのに)、他方、昨今の北朝鮮情勢や中国の横暴を思えば、今、東アジアからアメリカのプレゼンスがなくなれば大変なことになるのは間違いなく、気紛れトランプを引き留めるために、安倍首相が相当、心を砕いている様子も垣間見えて、日米両首脳の不思議な関係に思いを致した次第である。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます