遠友夜学校校歌の歌詞に「やしほ味よきうま酒か」という文章があり、過去ブログで「『やしほ』という語が、酒に使われる例を知らない」と書いたのですが、「やしほ+酒」は語形が少々違うのですが、古例があるようです。
最近、御伽草紙の本を読んでいたら、たまたま以下の文章を発見しました。
昔、出雲国簸川上と申所に、八岐大蛇(やまたのおろち)といふ大蛇ありしが、此大蛇、毎日生贄とて生きたる人を食ひける也。また、酒を飲む事おびたゝし。八塩折(やしほり)の酒を八の酒槽(さかぶね)に飲みしほどに、(略)
八塩折(やしほり)の注:幾度もくり返して醸(かも)したよい酒。やしおおり。中世「やしぼり」の訓も行われた。
(「伊吹童子」~『新日本古典文学大系54 室町物語集 上』岩波書店、1989年、189ページ)
そこで、日本国語大辞典・精選版でこの単語を引いてみたところ、前後に関連語が載っていたのです。「おり」「しほ」も調べました。
やしおおり(やしほをり)【八入折・八塩折】:幾回も繰り返し精製すること。やしおり。
やしおおりのさけ:何度も繰り返して醸成した酒。やしおりのさけ。古事記用例
やしおり(やしほり)【八入折・八塩折】:(「やしぼり」とも。「やしおおり(八入折)」の変化した語)=やしおおり(八入折)
やしおりのさけ:=やしおおり(八入折)の酒。古事記用例
おり(をり)【折】:🈪何回も繰り返すこと。「やしおおり(八塩折)」の形で、何回も酒をかもすこと、また、刀を何回も鍛えること。
しお(しほ)【入】:〔接尾〕色を染めたりする時に、染料を浸す度数を数えるのに用いる。古く、酒の醸造のとき、醸(か)む程度などにもいう。
ただ、「やしお(やしほ)」の語釈に「酒を何回も醸成すること」という語釈はありませんでした。やしほをりの酒=やしほりの酒=やしほの酒、ということになるので、「やしほ」の語釈にも追加されてよろしいと思います。
酒ではないが、たまたま以下の用例を見つけました。「喜びもひとしお」という用法は一般的ですが、こうなると、語釈が更に広がりそうです。
舘(定正をいふ)程なく還(かへ)らせ給はゞ、憂(うき)を轉(かへ)して御歓びは、八入(やしほ)ならん、と査(さつし)まつりぬ。
(「南総里見八犬伝 10」岩波文庫、131ページ12行目)