「袖冴える(袖冴ゆ)」という用語は和歌や謡曲に出てくる用法ですが、日本国語大辞典・第二版には立項していません。袖が極度に冷えることをいう。(とても寒いことを表現する。)
見つけた用例を、古い順に挙げます。
道芝(しば)の霜うちはらふ袖さえてまだ夜深くも出にける哉
(冬十五首、霜、国信、915)
『和歌文学大系15 堀河院百首和歌』明治書院、2002年、169ページ
そてさえて-あらしふくよの-つきみれは-こすゑもそらも-くもらさりけり
(頼政集・261~日文研HPより)
かたしきの袖冴え渡る冬の夜は床に衾のかひもなきかな
(六百番歌合、冬、衾)
『六百番歌合・六百番陳情(岩波文庫)』峯岸義秋校訂、岩波書店、1936年、207ページ
九重の雲のうへふし袖さえてまどろむ程の時のまもなし
(弁内侍日記~群書類従18)
後深草院辨内侍
しらぬにしるき冬の空かな
木枯しの吹かぬ折りさへ袖さえて
(菟玖波集・卷第六 冬連歌・560~バージニア大学HPより)
いとど氷室の構へして立ち去ることもなつかげの水にも澄める氷室守夏衣なれども袖冴ゆる気色なりけり
(「氷室」)
『謡曲集下(新潮日本古典集成)』伊藤正義校注、新潮社、1988年、144ページ
降る雪の蓑代衣袖さえて、春待ちわぶる心かな。
(「鵜祭」)
『謡曲評釋』大和田建樹、193ページ
袖さえて、得も寝ざりしが、今朝見れば、山山白く、雪ふりにけり。
『神・人間・自由』木下尚江、中央公論社、1934年、428ページ