ほっぷ すてっぷ

精神保健福祉士、元新聞記者。福祉仕事と育児で「兼業」中。名古屋在住の転勤族。

「偶然」―――ポーランドの共産党時代と人々の人生

2007-09-09 00:27:31 | Movie
★★★★

「もしあのとき、こうなっていたら・・・」と誰もが一度は考える。
父の望みで医大生となった若者が、父の死を機に街を飛び出そうとする。
駅のホームで、必死に走ってつかんだ手は、電車のポールに届くのか、届かないのか・・・

届いたら?そのままワルシャワへたどり着いたら?
届かなかったら?そして憲兵隊に補導されたら?
届かなかったら、そしてそこに恋人が見送りに来ていたなら?

80年代に入ったばかりのポーランド、全ての選択は、共産党を選ぶか、選ばないか、否応にも人生を揺るがす。折りしも労働者の共産党政権へのレジスタント運動が高まり、ついにはストライキ、「連帯」の結成がなされる頃。3通りの人生の、3通りの生々しさがある。

81年に製作されたが、当時は公開されず、90年代に入ってから世に出たという作品(とツタヤの案内に書いてあった気がする)。80年代、共産主義に染まるも反対するも、神を信じるも信じないも、「偶然」に拠ってしまうような、思想的に漂流しているような時代だったのかもしれない。はじめの方は、おそらく「共産主義」をあらわす映像やヒントが出てきていたのだと思うが、それがピンとこなかった。それが悔しいが、その危うさが売りの映画だったのだとしたら、日本人の私にもよく伝わってきた。なんというか、力のこもった作品だ。

人生は、偶然が左右するのか―――もちろん、イエスだと思う。ただその分岐点や、選択肢や、思想度は、時代や国が大きく左右する。それも含めて偶然と言ってしまったら、何も考える気がおきなくなってしまう。
80年代のポーランドには、上にも書いたように、偶然で1をつかんでも2をつかんでも、共産主義に翻弄されなければならなかった、その不幸を監督は書きたかったのだと私は思った。

「人は誰でも光を欲する。そしてそれが、年老いてからの辛酸をもたらす。結局人 はなにも出来ないのだ。でも何か出来る気になって、光を探す。

 (スパイ容疑をかけられ、拷問の末に何年も獄中に居たその老人は言う。)
 40年が経ち、言えることはひとつだ。
 光も辛酸もない人生だけは、無意味である。」

あぁポーランド。
もう一回行きたい。

ポーランドの名監督として知られた(らしい)キエシロフスキ。他にも見てみよう、そして時代に漂う、どんよりとした過去の雰囲気を見せて欲しい。