3月21日のNY金は、3営業日ぶりに反落なった。
前日20日のNY時間外ロンドンの午前の時間帯には、一時2014.90ドルと22年3月10日以来の高値を付けていた。週末にまとめられたスイス金融大手UBSによる同クレディ・スイス・グループの吸収合併だったが、それでも不透明感強く、市場の安定に時間を要するとの見方から、金市場では買い先行の流れが続いていた。NY市場に入って以降は、米国内での過度の金融システム不安が和らぐ中で売りが優勢となり上げ幅を削る形で、この日は9.30ドル高の1982.80ドルで終了していた。
一方、21日はNY時間外ロンドン午前までは1980ドル台での推移となっていたが、NY早朝から売りが先行する流れに転じた。午前に開かれた米国銀行協会のイベントでのイエレン財務長官の発言が伝わると、やや売りが膨らみ20ドルほど水準を切り下げ1950ドル台で売り買い交錯状態に。やがて下切ると一時1940ドルを下回り通常取引は前日比41.70ドル安の1938.60ドルで終了した。その後の時間外は横ばいで推移し、1941.10ドルで終了。22日のアジア時間に引き継がれた。
米国銀行協会のイベントで講演したイエレン財務長官は、米国の銀行システムは規制当局の強力な措置により安定しつつあるものの、「中小銀行が預金流出に陥れば、当局による預金保護が正当化されうる」とした。市場では、金融当局が金融システム不安の拡大防止策を続けるとの見方から安心感が広がることに。前日まで安全資産として買われていた米国債が売られ利回りが上昇する、いわば巻き戻しの中で、高騰してきた金市場にも売りが広がった。
21日に急落したNY金については、にわかに浮上した金融システム不安というイベント含みの急騰の、いわば調整が入ったという状況といえるだろう。金融環境自体は動乱は回避したものの、信用リスクの上昇に対する懸念は残っており、緊張感は持続するとみられる。したがって、このままNY金が下値を探る流れに転じるとは考えにくい。
市場の関心は本日の連邦公開市場委員会(FOMC)に向けられている。0.25%の利上げを見込む見方が大勢で、金融情勢を考慮し利上げ見送りとの見方もある。先週、金融市場が不安定化する中で開かれた欧州中央銀行(ECB)の政策会合は、継続するインフレ制御の観点から計画通り0.5%の利上げに踏み切りった。米連邦準備理事会(FRB)もECBと同様に予定通り0.25%の利上げに踏み切り、今後の利上げ停止を含む議論を進めパウエル議長が何らかのハト派的見方を示唆をするとの見方もある。
今回はFOMCメンバーによる経済予測が公開されることから、金利見通しがどうなるか焦点となる。どこまで利上げするのかが、最大の不透明要因となってきただけに、金融波乱という新たな要素が加わる中で示される見通しに説得性が高ければ金市場の方向感も出やすくなるだろう。
今回は、一連の銀行破綻についてFRBによる銀行監督体制の不備が指摘されており、金融政策の見通し以外の項目に対するパウエル議長の発言も注目される。ちなみに破綻したシリコンバレーバンク(SVB)だが、破綻の経営責任をとり退任したグレッグ・ベッカー前最高経営責任者(CEO)が、破綻直前までFRB傘下のサンフランシスコ連銀の社外取締役を務めていたことから、監督体制に欠陥があったとの指摘がある。
サンフランシスコ連銀というとデイリー総裁だが、FRB執行部と近い総裁と思い見ている。