先週末10月21日のNY金は、一時1621.10ドルと直近20年4月以来の安値となっていた 9月28日のザラバ安値1622.20ドルを下回った。そのまま1600ドル割れを試すかに見られたが、1620ドルのラインは意外に堅いという結果となった。その後、後述する米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が流した米連邦準備理事会(FRB)の利上げ減速観測を手掛かりに反転し、プラス圏で終了し(21日清算値1656.30ドル)状況次第では2番底確認に到る可能性が出た。
〇米紙WSJが示したFRB内の意見の割れ
6月の連邦公開市場委員会(FOMC)開催直前にWSJのフェドウォッチャー(Fed Watcher、FRB担当記者)で知られるニック・ティミラオス記者の記事(利上げ幅0.5%から0.75%に変更観測)が市場を動かしたが、21日にも同記者の記事が市場の手掛かり材料となった。 記事内容は、次回11月1~2日開催のFOMCで、0.75%の利上げを決める見通しとした上で、その際に12月会合で利上げペースを減速させるか否かを話し合うとした。
仮に減速させるとなった場合には市場にどう伝えていくかが、政策論議の焦点になるとみられるとしている。
「次回会合では引き締めペースについて徹底した討議を行うことになる」としたウォラーFRB理事の今月の講演での発言を取り上げた。
同記事によるとFRB内では、今年これまでに実施した利上げがどれほど景気を冷やしているか見極めるため、早期に利上げペースを緩め、かつ来年初めに停止することを求める声も出始めているとしている。
確かにこのあたりは、10月12日に公開された9月FOMC議事要旨に、数名がその旨の発言をしたとあったので、整合性がある内容と言えるもの。一方で、インフレ高進が想定以上に長引いていることを踏まえると、こうした議論は時期尚早との意見もあり、見解は分かれているとしている。
フロント・ローディングと表現されているが、一気に景気抑制水準まで政策金利を引き上げ、その後高みの見物を決め込むわけではないが、効果のほどを注視するというのがFRB内の大勢意見であるのは間違いなかろう。
〇過剰な利上げで米国債相場も不安定化
では慎重意見の背景はというと、この点に関して筆者が注目していたものに10月14日のカンザスシティー連銀のジョージ総裁の発言がある。S&Pグローバル・レーティングスが主催したイベントでのもので、市場にボラティリティーが見られているときは(値動きが大きいときは)、政策の不確実性を最小限に抑える必要があるとして、高水準の利上げは必要であるものの、「あまりに急速に動けば金融市場が混乱する恐れがある」とした。
中央銀行の政策措置が経済に浸透するのに時間がかかることを踏まえ、FRBは利上げを慎重に実施していく必要があるとの考えを示した。 おそらく9月下旬に急浮上した英国国債の急落に端を発した、英国年金基金の巨額含み損(最大で1500億ポンド、約25兆円、JPモルガン・チェース試算)の急浮上が念頭にあるとみられ、インフレ抑制とはいえFRBによる急ピッチの利上げは慎重に検討すべしという意向とみられる。
というのは、英国債の乱高下は米国にとっても他人事ではなくなっていることがある。
足元で米国債も流動性低下とボラティリティー(変動率)上昇が問題視されているからだ。米国債の不安定化は米財務省の懸念材料となりつつある。
以前見通しとして書いたが、FRB財務が債券ポートフォリオ(保有する国債と住宅ローン担保証券)からの利息より、準備預金などへの支払い利息の方が多い「逆ザヤ」が、足元で現実のものとなりつつあることも懸念材料といえる。もっとも、赤字になっても繰り延べるからOKとしているが、ドルの発行体が赤字転落で問題なしか否かは市場の反応次第となる。