欧州中銀(ECB)が9日の政策会合で7月1日に量的緩和政策を終えることを決定。さらに同月中に政策金利を0.25%引き上げ、9月も利上げを継続する見通しを示した。これ自体は市場で想定されていたものでサプライズはない。むしろ今回の会合で最初の利上げをするとの予想も一部にあった。ポイントは、9月の会合での利上げ見通しを示したこと。これはラガルド総裁の記者会見での発言の前に、声明文に盛り込んだのでほぼ「予告」に近いことになる。
もっとも、FRBが既にパウエル議長はじめ関係者の発言で、今後2会合(6月、7月)は0.5%利上げを実施する旨を市場に織り込ませたので、予告は珍しくはないが敢えて声明文に盛り込んだのは、市場や消費者に訴えることでインフレマインドの高まりを抑える意図があってのものと思われる。しかも、インフレに沈静化が見られない場合(「変わらないか悪化すれば」)は、9月の大幅な(0.5%)利上げの可能性も同時に示唆した。大幅引き上げの可能性を、この時点で表明するのは、ややサプライズと言えた。パウエル議長も似たようなものだが、ラガルド総裁は数カ月前には年内利上げを否定していた。それぐらい今回のインフレは急加速が特徴となっており、FRBもECBも大慌てで対応に臨んでいる。後手に回ったという意識が強い分、打つ手も強烈という印象で、思うにやり過ぎるのだろう。
さすがに債券市場は売りが先行し、欧州諸国の国債利回りが軒並み大幅に上昇し、長期金利の指標となるドイツ10年債利回りは8年ぶりに1.4%台へ上昇(価格は下落)した。1月はマイナス利回りだった。財政内容の悪いイタリアやギリシャなどはさらに跳ね上がり、イタリア10年債は一時3.74%まで跳ねて引けは3.606%となった。ドイツ債とは約2.2%の開きとなる。
この話に関連するが、ECBが引き締め加速方針を示したにもかかわらず、この日の為替市場でユーロドルは下落したのが目に止まった。本来であれば9月の大幅引き上げの可能性まで飛び出したのだから、ユーロは買われてしかるべしだが、逆に売られた。
なぜなら、今後の引き締め過程でECBの買い支えがなくなると、財政赤字が多く経常収支も赤字のイタリアなど基盤の弱い南欧債は売られやすく、国債消化には高い利率を提示する必要があることが予想されるからだ。2010年に表面化したギリシャ危機に端を発し、2012年にはイタリア、スペインなど南欧を巻き込むソブリンリスクの上昇が、10年後に再浮上しかねない状況にある。今回の会合では、こうした格差問題への対応策が示されなかったことが、市場の懸念事項として国債売り、ユーロ売りとして現れた。株も大きく下げたので、ユーロ圏はいわゆるトリプル安に見舞われたことになる。
売りは米国債にも波及することになった。米10年債利回りは、前日の水準を上抜き一時3.072%と1カ月ぶりの高水準に上昇。5月のCPI(消費者物価指数)発表を控え神経質な市場で、そのまま景気減速、先行きの業績懸念に焼き直され株安につながった。
本日発表されるCPIの市場予想は前年同月比では8.3%と前月から横ばいとなっている。ただし、トレンドをはかる上で重視される前月比では加速が見込まれている。市場はこのところインフレピークアウトの手掛かり探しに熱心だが、逆に高止まり、あるいは再加速となると波乱含みとなる。このところモノからサービスへ消費の矛先が変わりつつあり、航空運賃や宿泊費などサービス価格の上昇が目立っている。エネルギーや食品を除いたコア指数は軟化というのが市場予想のようだが、そうだろうか。総合指数自体もガソリンの上昇などから上振れの可能性もありそうだ。そうなると、FRBの金融引き締めペースの加速を示唆し、株式市場は大幅続落となりそうだ。下げるとテクニカル要因も悪化しそうだ。果たしてどうなるか。
こうした中で1850ドル前後で滞留するNY金は、非常に安定した値動きといえ、ECBがタカ派化しようが、今夜のCPIでFRBの9月の0.5%利上げ見通しが固まろうが、むしろその先の環境を見据えた動きに移行しようとしている。