新型コロナウィルス感染再拡大によるリスクオフ・センチメントの中で態勢を立て直すかに見えたNY金だったが、FRB理事のタカ派コーラスに足元をすくわれることになった。
前週末の通常取引終値は前日比9.80ドル安の1851.60ドルだったが、その後の時間外で1846.80ドルと7営業日ぶりの水準で週末の取引を終えていた。週明けの市場も、日本時間夕刻の時間帯(ロンドン時間)はほぼ同じ水準に位置しているが、やや売り先行となっている。
市場環境としては、新型コロナウイルスの感染再拡大の勢いが弱まらず、経済への影響が懸念されるレベルに高まっていることがリスク要因として意識されることになった。週明け22日から全土でロックダウン(都市封鎖)が再び始まったオーストリアはじめ1日の新規感染者数が過去最多を記録しているドイツでは、前週末、連邦と各州政府が、新型コロナ関連の各種規制の大幅強化で合意したと伝えられた。すでにこのところのユーロ安(ドルインデックスの押し上げ)に表れているが、域内最大経済国のドイツの減速につながる流れとなっている。 米国でも北東部や中西部で感染者数が増えており、感染拡大がリスク要因として再び強く意識され始めている。
米株式市場では、旅客需要の伸び悩み観測から、航空機のボーイングが大幅安になるなどダウは3日続落。週間ベースでは1.4%安と、2週連続で下落し、11月の上昇分を全て失った。一方、安全資産として米10年国債など長期債に買いが入り利回りは低下。長期金利の低下は高PERのハイテク株のサポート要因になることもあり、ナスダック総合は連日で終値の最高値を更新。初めて1万6000ポイント台に乗せて終了し明暗を分けた。コモディティ市場では、冬の入り口で早々のロックダウンなど、この先の世界経済への影響から需要減少観測もあり、原油相場が大幅下落に。
リスクオフ・センチメントの広がりの中でNYの午前終盤まで安全資産として買われていた金だったが、その後2名のFRB理事の発言が受け、急速に水準を切り下げることになった。
クラリダFRB副議長は、経済は「非常に力強く推移している」とした上で、インフレの上振れリスクもあり12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和の縮小(テーパリング)ペースの加速を討議することが「極めて適切となる可能性がある」と発言。
一方、10月以降にわかにタカ派的発言が目立つウォラーFRB理事は、同様に持続的な高インフレや堅調な雇用の伸びを指摘し、テーパリングのペースを加速させ、予想よりも早期に利上げを実施する用意を整える必要があるとした。同理事は来年1月に縮小ペースを倍増させ、4月に完了させた上で、4~6月期に利上げに着手するという、明確な時間軸を提示した案に賛意を示している。これまで利上げの先の資金回収(資産売却)の前倒しの必要性まで言及していたので、この程度の内容は想定内だが、24日に公開される11月FOMCの議事要旨を先行して自身で語ったというところか。
今週は、その議事要旨の内容から、メンバー全員の経済予測が公開される12月のFOMCの 手掛かりを探ろうと思っていたのだが、この2名の理事の発言内容から、FRB内でも早期利上げ観測が高まっていることが表面化することになった。週末の下げで、週足も陰線になった金だが金ETF(上昇投資信託)の最大銘柄「SPDRゴールド・シェア」の残高が、この日1日で8.13トンとまとまって増えたのが目を引いた。決していいとは言えない地合いの中で、押し目買いがETFを介して入ったことを意味する。