世阿弥の謡曲「檜垣」より冒頭の一節
▼ワキ(修行僧)の謡
これは肥後の国岩戸と申す山に居住の僧にて候。
さてもこの岩戸の観世音は、霊験殊勝の御事なれば、暫く参籠し所の致景を見るに、南西は海雲漫漫として萬古心のうちなり。人稀にして慰み多く、致景あつて郷里をさる。真に住むべき霊地と思ひて、三年があいだは居住仕つて候。こゝに又百にも及ぶらんとおぼしき老女、毎日閼伽の水を汲みて来り候。今日も来りて候はゞいかなる者ぞと、名を尋ねばやと思ひ候。
※閼伽の水(あかのみず):仏に供える水

岩戸山の上から望む有明海と雲仙
▼前シテ(老女)の謡
影白河の水汲めば、影白河の水汲めば、月も袂や濡らすらん。それ籠鳥は雲を恋ひ、帰雁は友をしのぶ。人間もまた是同じ。貧家には親知少く、賤しきには故人疎し、老悴衰へ形もなく、露命窮つて霜葉に似たり。流るゝ水のあはれ世の、その理を汲みて知る。こゝは所も白河の、こゝは所も白河の、水さへ深き其罪を、浮かみやすると捨人に、値遇を運ぶ足引の、山下庵に著きにけり。山下庵に著きにけり。いつもの如く今日もまた御水あげて参りて候。
※値遇(チグ):仏縁あるものにめぐりあうこと

山下庵跡に佇む野仏。向うに見えるのが岩戸山と雲厳寺
▼ワキ(修行僧)の謡
これは肥後の国岩戸と申す山に居住の僧にて候。
さてもこの岩戸の観世音は、霊験殊勝の御事なれば、暫く参籠し所の致景を見るに、南西は海雲漫漫として萬古心のうちなり。人稀にして慰み多く、致景あつて郷里をさる。真に住むべき霊地と思ひて、三年があいだは居住仕つて候。こゝに又百にも及ぶらんとおぼしき老女、毎日閼伽の水を汲みて来り候。今日も来りて候はゞいかなる者ぞと、名を尋ねばやと思ひ候。
※閼伽の水(あかのみず):仏に供える水

岩戸山の上から望む有明海と雲仙
▼前シテ(老女)の謡
影白河の水汲めば、影白河の水汲めば、月も袂や濡らすらん。それ籠鳥は雲を恋ひ、帰雁は友をしのぶ。人間もまた是同じ。貧家には親知少く、賤しきには故人疎し、老悴衰へ形もなく、露命窮つて霜葉に似たり。流るゝ水のあはれ世の、その理を汲みて知る。こゝは所も白河の、こゝは所も白河の、水さへ深き其罪を、浮かみやすると捨人に、値遇を運ぶ足引の、山下庵に著きにけり。山下庵に著きにけり。いつもの如く今日もまた御水あげて参りて候。
※値遇(チグ):仏縁あるものにめぐりあうこと

山下庵跡に佇む野仏。向うに見えるのが岩戸山と雲厳寺