
女優の浅丘ルリ子さんが文化・芸能で顕著な功績をあげた人に授与される勲章「旭日小綬章」を受章した。記者会見の席で浅丘さんは「この喜びを寅さんに伝えたい!」とおっしゃったそうだ。その時、浅丘さんの胸に去来したものは何だったろうか。おそらくこのシーンではなかったろうか。それは「男はつらいよ」シリーズの第15作、「寅次郎相合い傘」において、渥美清さん演じる寅さんが柴又の家族の前で演じる「寅のアリア」と呼ばれるシーンだ。全シリーズの中でも屈指の名場面といわれているが、浅丘さん演じるリリーさんのつらく悲しいキャバレー回りの人生を思いやりながら、いつかは一流の舞台に立たせてやりたいとリリーさんへの愛を吐露するシーンだ。一昨年だったか、NHK-BSで「男はつらいよ」の全作品が放映された時、ゲストで出演された浅丘さんが、このシーンの話になった時、涙ぐんでおられたのを思い出す。
―スポットライトがパーッ!と当たってね
―そこへまっちろけなドレスを着たリリーがスッ・・と立ってる
―ありゃあ、いい女だよォ~、え~。ありゃそれでなくたってほら、ようすがいいしさ
―目だってパチーッとしてるから、派手るんですよ。ねぇ!
―客席はザワザワザワザワザワザワザワザワってしてさ 綺麗ねえ…。 いい女だなあ…
―あ!リリー!! 待ってました! 日本一!
―やがてリリーの歌がはじまる…
―♪ひ~とぉ~りぃ、さかぁばでぇ~~~……、のお~むぅ~さぁ~けえ~はあ~~~…
―ねぇぇ…。客席はシーンと水を打ったようだよ、みんな聴き入ってるからなあ……。
―お客は泣いてますよぉ~…
―リリーの歌は悲しいもんねぇ……
―やがて歌が終わる…。花束!テープ!紙吹雪!ワァ―ッッ!と割れるような拍手喝采だよ
―あいつはきっと泣くな…。あの大きな目に、涙がいっっぱい溜まってよ…
―いくら気の強いあいつだって、きっと泣くよ…
※セリフは「
男はつらいよ覚え書きノート」を参照させていただきました。