
森繁久彌と渥美清。森繁久彌が15年先に生まれて、亡くなったのは渥美清が13年早かった。この二人、共通点が多い。軽妙洒脱な芸風や滑舌の良さもそうだが歌も上手い。若い頃、NHKをステージに実力を付けたことも同じだ。渥美は森繁に憧れていたらしい。特に、森繁の絶妙な「間」を研究していたそうだ。森繁も、渥美を若い頃から注目していたらしく、渥美がまだ、映画界では無名だった頃、森繁の引きで出演できたこともあるらしい。そんな二人が共演した映画が数本あるが、中でも「男はつらいよ」シリーズの第6作、「男はつらいよ 純情編」は想い出深い。渥美の森繁に対する気持は、山田洋次監督も知っていたのだろう。二人の絡みのシーンは、そんな渥美の想いが滲み出るような、ほのぼのとした暖かいシーンだった。また、この出逢いに至る前段の、森繁の娘役、宮本信子(若~い!)との絡みが、シリーズの中でも特筆すべき秀逸なシーンだ。
寅が、長崎の五島に渡る船の最終便に乗り遅れる。すると、同じように乗り遅れた、子どもを背負った若い女(宮本)に気付く。女が一晩泊まる金を持っていないことを知った寅は、自分と同じ宿に泊めてやる。金を返すあてのない女は、夜中、寅の前で服を脱ごうとする。その時の寅のセリフがこれだ!ワン・ツー・スリー!
「オレの故郷にな、ちょうどあんたと同じ年頃の妹がいるんだよ。
もし、もしもだよ、その妹が行きずりの旅の男にたかだか
二千円くらいの宿賃でよ、その男がもし、妹の体をなんとか
してえなんて気持ちを起こしたとしたら、オレはその男を殺すよ。
五島とかいう…あんたの故郷で待っているおとっつあんだって
オレと同じ気持ちだよ。それに決まってらぁな!」
何度見ても涙なしには見られない。