どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

能登の又次・・石川

2022年03月31日 | 昔話(北信越)

           石川のむかし話/石川県児童文化協会編/日本標準/1977年

 

 能登では、嘘の上手な人を「千の浦の能登の又次か」というのですが、嘘にまつわる話が又次をとおして語られていたのでしょうか。クスリと笑えます。

<その1>

 あるとき、船頭が又次に、「卯(東)の方角に向けて、かじをとっとれや」というて、かじをとらせたが、船頭が甲板に上がってみると、とんでもないとこを走っているので、「又次や、わりゃ、どこむけてかじとっとるがい」ときくと、又次が言うには「うのほうにむけて行けちゅうさけ、おらウの飛んでるところにむけて、走らしとるわいね」という。船頭が海を見ると、なるほどやまほどのウが とんどったそうな。

<その2>

 海がひどく荒れた日のこと、浜へでっかいクジラがあがったというので、村のものが包丁や切れもんさげて、浜に出ると、海が荒れているだけ。ふれまわった又次も、包丁持って真剣な顔をしているので、みんな苦笑いするだけ。

<その3>

 薬屋に仕えていた又次が、だんなから薬を買ってくるようにいわれるが、又次は浜でひるねして、クスリやったか、ヤスリかわからんようになった。

 ヤスリを買ってもどると、だんなは目玉ひんむいておこる。しかし、又次の言い訳。「クスリもヤスリも、考えてみりゃそうかわらんぞね。ヤスリとクスリでは八(ヤ)と九(ク)のちがい。なんのひとすりのちがいだけで、ヤスリもクスリも親類みたいもんや」

<その4>

 小倉屋のだんなが、又次をこらしめてやろうと、腰をぬかすほどの嘘はこけんやろと持ちかけます。

 又次は、いっときたってから、外から飛び込んできて、「おら、めずらしいもん見てきた。ツルガタケ山にツルのすをみてきた。」というので、旦那も見たくなり、案内するよう又次にいいます。又次と旦那が山に登ると、又次はでっかい木によじのぼって、火事がみえるといい、小倉屋にも火がまわったと叫びます。小手をかざし、ほんとうらしくいうので、旦那はびっくりして、腰がぬけてすわってしまいます。又次が旦那を背負って、小倉屋に帰っても、もちろん火事ではありませんでした。「約束した腰をぬかす嘘」はこれでした。