岐阜のむかし話/岐阜児童文学研究会編/日本標準/1978年
ある日、のどかな村の五作じいさんの綿畑が、何者かに ひどくあらされ、それが毎晩のように続いた。
了福寺のおしょうさまが、このさわぎを聞き、綿畑を見張っていると、川面になにやらあやしいかげ。おしょうさまが、ふところにしのばせておいた荒縄をひっつかむと、とびかかった。不意をくらった黒い影は、あわてて逃げ出そうとしたが、腕っぷしの強いおしょうさまに、たちまちとらえられてしまった。
お寺の柱にくくりつけ、ろうそくのあかりで、よくよく見てみれば、なんとこのふとどきもの、カッパだった。おしょうさんが、わけをきいてみると、カッパは ぽつりぽつりと話しはじめた。「この前、橋の上をよめさんの行列が通り、よめさんは、きれいな綿ぼうしをかぶっとった。満月の夜、よめいりするうちのむすめにも、あんな綿ぼうしをかぶせてやりたい」という。
この話を聞いたおしょうさまは、庫裏の奥から包みをとりだしてきて、「これは、わしのばあさまがかぶった綿ぼうし。すこし古うなっているがつかうがよい」と、カッパにわたされた。
すると、満月の夜、お寺に一通の手紙がなげこまれた。
「おしょうさん わたぼうしをありがとう もうわるさはけっしてしません」ミミズのはったような字であったが、なんとこの手紙、カッパのわび状っだった。それからは綿畑があらされることもなくなったという。
綿畑がないと成立しない話ですが、むすめのことを思いやるカッパの親の気持ちがよくわかります。