三重のむかし話/三重県小学校国語教育研究会編/日本標準/1977年
ばくちの好きな男が、負けが込んで、手にもっていたサイコロを振って「丁(偶数)見たか,半(奇数)見たか。」とやっていると、このようすを見ていた山のてんぐが「京(京都)見たか、阪(大阪)見たかて、ひとりごとをいうとるが、はて、みょうなやつじゃなあ。」と、聞き違えサイコロに興味をもった。
男は口から出まかせに、ふしぎな品物だといわんばかりに、サイコロをみせびらかした。サイコロが欲しくなったてんぐは、空をとぶことができるはねと、トーミうちわ(ねがいごとがなんでもかなううちわ)を差し出して、サイコロととりかえた。
男はすぐに大阪へとんで、よめいりじたくのまっさい中の、大きな家のむすめの鼻をのばしたりすっこませたりして喜んでいたが、むすめが泣きじゃくるのを見て、かわいそうになってややめてしまう。
そのうち、自分の鼻をあおいでみようと、トーミうちわであおぎだすと、のびるわのびるわ、ずうっとのびて江戸の両国までのびてしまう。長い鼻を見た江戸の人たちが、「みょうなものやね。」と、めずらしがるので、男はとんでいって、「こうや、こうや。」と、わけをはなすと、見世物小屋で、おおぜいの人の前で、やってみせることに。
鼻をのばしたりちぢめたりする見世物小屋は、毎日大入り満員になり、男は、大金をもうけて、おやじをよろこばせた。それで今でも江戸のことを、「鼻(花)のお江戸」というという。
てんぐが、だまされてくやしがるところもなく、男も悪さをするわけでもなく、何かオチが先にあるような話。