茂吉のねこ/文・松谷みよ子 絵・辻司/ポプラ社/1973年
茂吉は、茂吉の「も」の字を聞いただけでも けものという けものは、すかん すかんと にげだすほどの鉄砲うちの名人。この茂吉、とほうもない 酒飲みで、一日 やまへ入ると つぎの 三日は 酒を 飲んでいます。酒の相手は、かわいらしい三毛猫が 一匹。
不猟のある日、酒飲んで ねるべと 酒屋によると 勘定が だいぶたまったから 払えといわれ、帳面を見ると 覚えのない勘定がついているので 言い争いに。
あたりが暗くなったころ、赤い半纏を着た かわいらしい わらしが 店先にやってきて、「さけ 一升 おくれという」というと、「かんじょうは 茂吉だ。」と、表へ でていきます。
あっけに とられた 茂吉が やにわに 手に持った 煙管を、わらしに めがけて なげつけると わらしは 悲鳴をあげ にげだしました。
ぼんが ぼんがと逃げていくわらしを おいかけていく、そこは ばけものづくしの野原。
青い火、赤い火の中で あっちゃぶんぐら こっちゃぶんぐら どんどんどん。ばけものが たらん、たらん、踊っていた。
ばけものが、「やあ、茂吉の ねこ、はやく 酒こ だせ!」
「おら、こんやは さけだせね、さっき さかやで おやじに ばったりあって、きせる なげられて けがしたもの」
「けが したってか。だいたい あの 茂吉は、鉄砲など もってけしからん。茂吉は ころしべし」「茂吉のねこは あすのあさ、茂吉の ぜんのうえを ぽんと とべ、そのめしを くえば 茂吉は しぬ。」
これをきいた、茂吉のねこは からだをうごかし、なき声をたて、「おら やんだ、おら、茂吉 すきだもの」
「ばけものの つらよごし、茂吉のねこも しぬべし」と、ばけものの 火ばしのような ながい ほそい 手が、茂吉のねこの くびに のびました。その時、茂吉の鉄砲が火をくと、野原は ごうっと ゆれ、あたりは しいんと まっくら。
やがて ねこの なき声がして、茂吉の 小さな 三毛猫が すりよってきました。
「こら、おまえみた ちびっこねこが、いちにんまえに、ばけものの なかまいり すんでね、この ばかたれ」。茂吉は、ねこを しかりとばし かたにのせ、家へかえりました。
次の朝、明るくなってみると野原には、古蓑や、ふるい 木の こづち しんだにわとりの ほねなどが ころがって いました。
この絵本の出版は、1973年。その十数年前に書かれたといいます。秋田の昔話がベースになっていますが、「再話からはずれて、わたしなりのものに なっているかと思う」と、ありました。
大酒のみではあるが ねこをしかりつけるあたりは 愛情がこもっていて こどもを 思うよう。茂吉の性格がでています。
「大量生産、大量消費、大量廃棄」の傾向はかわってきましたが、廃棄されたものが おばけになるのは、現代への警告でしょうか。