大分のむかし話/大分県小学校教育研究会国語部会編/日本標準/1975年
昔、別府の海にあったという瓜生島の伝説。
瓜生島には、島の守り神として、えびす様が祭られており、えびす様の顔が赤くなったときは島が沈んでしまうという言い伝えがあった。反対に、えびす様を大事にして、島じゅうなかよくしていれば、ご利益もあり、魚もたくさんとれるというので、島の人たちは、毎朝交代で、えびす様におまいりし、おそなえして、島の無事なくらしをお願いしていた。
この島に、悪太郎と島じゅうから呼ばれ、つまはじきにされているきぬ平という若者がいた。悪太郎は、浜に干してある魚に、砂をかけたり、畑にいって、いもをだまって持ち帰るなど、悪さをしかけて、島の人がこわがったり、びっくりしている姿をみてよろこぶしまつ。
ある日、えびす様におそなえしただんごや赤飯をよこどりしていたところが見つかり、ふくろだたきにされた悪太郎。えびす様の顔に、こっそり べにがら(赤えのぐ)を ぬって、「あしたは、島中がおおさわぎじゃ。」と、ぐっすりねこんでしまう。
翌朝、島の人がえびす様の顔を見て大騒ぎ。気の早いものは船を出して逃げ出したが、大部分の人は島への愛着から、どうしても逃げ出す気になれなかった。ところが、悪太郎からえびす様にいたずらをした日から、地鳴りがいっそうはげしくなって、島全体が揺れ始めた。島の向こう岸の高崎山、それにつづく山々が、いっせいに火を噴き、火の柱が空を焦がしたので、島の人々は、「島が沈むぞ」と、別府や日出の浜に向かって逃げ出した。島にはたったひとり悪太郎が残った。
悪太郎が、無人の島に残された食べ物をたらふくたいただいて、お殿様のようなくらしをさせてもらうわい。」と笑ったとき、風が起こり、一面に雨雲が広がり、海の色がみるみるうちに黒々して、その上を白い三角波が走り、地がさけ、津波が。
悪太郎は津波にのみこまれ、泣き叫ぶが、もうあとのまつり。瓜生島は地滑りを起こして、別府の海の底にのまれていった。