宮城のむかし話/「宮城のむかし話」刊行委員会編/日本標準/1978年
村の若いもんが、おみつというむすめに朝に夕に「おみっちゃん、おみっちゃん」と声をかけるが、おみつはいっこうに耳を貸さなかった。いつのころからか、そんなおみつの顔色が悪くなり、口数も少なくなった。
おみつの母親が、何か心配事があるのではと、となりのばあさまに相談をした。おみつが話したのは、「おらこのごろ、すきな人できた。」。ばあさまが名前を聞こうとしたが、ほかの村の人だという。村では、ほかの村のものというと、歓迎されなかった。
ばあさまが、なにかふしぎなことなかったかときくと、その男は毎晩、家の人が寝静まると同じような時刻に来て、朝は夜の明けないうちに帰るという。つづけて、その男の体はとっても冷たいという。たまげたばあさまは、「今夜小豆をにて、その汁をとっておけ。その人きたたらば、その汁をあっためて、寒かったからあったくなるように足をあらってやれ。足さえ洗えば、男の正体がわかるから。」
おみつが、ばあさまからいわれたように、男の足をあらってあげると、男はだんだん元気がなくなって、「おみっちゃん、おら、なんだか、とっても体がだるくなってきた。すまねえが、早く帰らせてもらうから」といって、その夜のうちに男はかえっていった。
あくる朝、漁師が浜にいくと、おおきなタラが波打ち際で死んでいるのを見つけた。それを聞きつけた村の人は、タラのあまりのおおきさにすっかりきもをぬかれてしまった。
いっぽう、となりのばあさまは、「ああ、やっぱり。タラであったか。」と独り言。
だれがとってきたタラかわからないが、村の浜にきたから、みんなのものだ、と、大タラを切って売ることにした。なんと、切られたタラの肉は、馬車五台分。それで、じぶんたちの村を”五だんたら村”と呼ぶことにした。
いっぽうおみつは、男の正体を知って、はらがいたくなり、タラの子を山のようにうんで、タラのあとをおうように死んでしまったと。
おみつのいた”五だんたら村”は、いつのころからか、ごんだら村と呼ばれるようになったど。
ちょっとかわいそうになる話です。